いまこそ国連幻想を排そう
Japan In-depth / 2022年4月16日 23時0分
もう少し新しい実例をあげよう。
一橋大学名誉教授の都留重人氏は1996年に刊行した「日米安保解消への道」という書で沖縄に国連本部を誘致することを提唱していた。同時にその国連に日本の防衛を任せようという主張だった。
「日米安保も米軍基地もない平和な沖縄をつくるための最適の具体的措置は国連本部を沖縄に誘致することだ。現在の沖縄こそが国連本部の所在地として、米軍基地も完全に撤去された『平和の拠点』となるにふさわしい」
こうした主張はいずれも日本の防衛は日米同盟や自衛隊を排して、そのかわりに国連に依存すべきだ、という政策の提唱だった。日米同盟・自衛隊と国連とを二者択一とし、前者をなくして後者を採用すべきだという主張でもあった。
主権国家の必須要件たる自衛という行為を最初からすべて国連に外注するというのは政策論としてはあまりに愚かである。その主張の土台は戦後の日本の果てしなき国連信仰だともいえよう。
より近年では小沢一郎氏が日本の安全保障や外交に関しても国連にまず依存すべきだという「国連中心主義」を唱えていた。これまた危険きわまりない国連信仰だといえよう。
だがこの「信仰」は明らかにぎらりとした政治的主張とも一体になってきた。日本の安全保障政策で「国連」を強調することは多くの場合、「日米同盟・自衛隊」への反対を自動的に意味してきたからだ。日米同盟への反対の政治標語の一部として「国連」がよく使われてきた、といえよう。国連の効用さえあれば、日米同盟も自衛隊も必要ない、という主張が堂々と叫ばれてきたのである。
写真)安倍晋三首相(当時)が出席して行われた第53回自衛隊高級幹部会同 東京・防衛省 2019年9月17日
出典)Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
何度も述べるが、いまの時代には信じられないほど非現実的な主張である。そんな主張が日本の高邁な知性とか有力な政治家とされる人たちによって唱えられてきたのだ。その種の主張は以前から現実派からは批判されてきた。だが長年の日本での安全保障論議の経緯をみると、現実派の声が小さい時代が多かった。そうした現実派の一人、防衛大学名誉教授の佐瀬昌盛氏が以前に論評していた。
「日本の安全保障や防衛を正面から考えたくない、取り組みたくないから国連を引き合いに出すというのは、国連にとっても日本国民にとっても不敬な話だ。他のどの国でもまず自国の安保を考えたうえで国連を考えている」
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