ロシアが突きつける核の脅威 その1 バイデン政権の沈黙
Japan In-depth / 2022年4月17日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・第二次世界大戦後の安全保障の概念を根本から覆すロシアによる核の恫喝。
・アメリカの核のカサの保護下にある日本にとって、アメリカの動向が非常に重要である。
・バイデン政権としてのロシアに対する公式な非難や警告の声明は発せられなかった。
ウクライナ戦争が広げた衝撃波の一つはロシアによる核兵器使用の示唆だった。核の恫喝ともいえる。しかも核兵器を持たないウクライナに対して同国内に限定された小規模の地域戦争でも場合によっては核兵器を使う用意がある、とプーチン大統領は言明したのだ。
第二次大戦後の80年近い世界の歴史でも初めての核超大国による正面からの核兵器使用の威嚇だった。だがもう一つの核超大国アメリカの政府はこの重大事態に沈黙したままだった。アメリカにとっての友好国のウクライナに対してロシアが核兵器を使う準備があるぞ、と威迫したのである。
だが、アメリカのバイデン政権は対抗や抑止のための反応をなにもみせていない。こんな危険な事態をどう受け止めるべきか。とくにアメリカの拡大核抑止、つまり核のカサの保護下にあるとされる日本にとって核の抑止や脅威の面でのアメリカの動向は超重要である。
そのあたりの核をめぐる情勢の報告と論考を試みた。
全世界が震えた!
こんな表現も決して誇張ではないだろう。
すでに世界を揺るがせたロシアのウクライナ攻撃で核兵器までが使われるかもしれない、というのだ。文字どおりの世界にとっての恐怖だといえよう。いや脅迫と呼ぶほうが正確だろう。
ロシアのプーチン大統領が2022年2月末、ウクライナへの軍事侵略の過程で核兵器を使用することもあるという意図を表明した。アメリカをはじめ全世界を震撼させる言明だった。ウクライナで核戦争が起きるかもしれない、というのだ。
プーチン大統領のこの核威迫は、言明だけでも戦後の国際秩序を支えてきた安全保障の概念を根幹から変えたといえよう。規模が限定された地域戦争でも一方的に核兵器を使うという戦術が打ち出されたからだ。
プーチン大統領は2月27日、ロシアの国防大臣と参謀総長に対してロシアの核抑止部隊を「特別の臨戦態勢」におくことを命令した。「核抑止部隊」とは核戦力の部隊のことである。
ロシア軍は2月24日にウクライナへの軍事侵略を開始していた。その3日後の「核抑止部隊の臨戦態勢」への配備はウクライナでの戦闘に核を使う可能性を示していた。プーチン大統領は自己の侵略的な野望を核兵器を使ってでも実現すると、全世界への威嚇をこめて宣言したわけだ。
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