ロシアが突きつける核の脅威 その1 バイデン政権の沈黙
Japan In-depth / 2022年4月17日 23時0分
ロシアは軍事弱小国のウクライナに一方的に軍事侵攻して、非核のその相手に核兵器を使う意図を宣言したのだ。これほど理不尽な軍事脅迫も近年の世界では他に実例がない。しかもロシアの軍隊はウクライナで民間の市民や施設を殺傷し、破壊している最中なのである。
国連のグテーレス事務総長はこのプーチン核言明を「背筋が凍る」と評して、「核戦争が考えられる可能性となった」と警告した。
アメリカでもプーチン宣言に対して電撃のような反発が広がった。軍事や核戦略に詳しい専門家たちの間であればあるほど、その反応は鋭く険しかった。
アメリカ議会も下院情報特別委員会などがこの課題を緊急にとりあげた。3月8日の同委員会の公聴会でバイデン政権の国家情報会議のアブリル・ヘインズ長官は「プーチンは当面、米欧側の介入を防ぐために核攻撃の威嚇を使っているようだが、現実の核戦争の可能性も真剣に考えねばならない」と証言した。
▲写真 アメリカの下院情報特別委員会の公聴会で発言するバイデン政権の国家情報会議のアブリル・ヘインズ長官(2022年3月8日アメリカ、ワシントンDC) 出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images
アメリカ側全体としての当初の反応は当然ながら、プーチン大統領がウクライナでの戦闘で本当に核兵器を使う意図があるかどうかの究明だった。単なる空疎な恫喝なのか、それとも真剣に検討する現実の選択肢の一つなのかの、みきわめでもあった。
アメリカの多数の官民の戦略問題専門家たちが公開の場でも熱のこもった議論を始めた。
その当初の議論の全体を総括するならば、「プーチンはウクライナで実際に核兵器を使用することはまずないだろうが、なおわからないし、場合によっては使うかもしれない」という骨子となる。その「わからない」という部分や「使うかもしれない」という部分が死活的な重みを持つことは当然である。
だが、バイデン政権としてのロシアに対する公式かつ対外的な非難や警告の声明は発せられなかった。核兵器の使用の可能性という非常に危険な事態への核戦略、核抑止という次元でのアメリカ政府の公式な対応がなかったのだ。
アメリカとロシアという核保有の大国同士での関係においてロシアの明白な核攻撃の恫喝に対して、アメリカ側は政府として正面から反発する抑止の言動はとらなかったのである。
(その2につづく。全5回)
**この記事は月刊雑誌「正論」2022年5月号の古森義久氏の論文「プーチンの『核宣言』と米欧のジレンマ」の転載です。
トップ写真:アメリカがウクライナに対して行なっている支援について演説を行うバイデン大統領(2022年3月16日アメリカ、ワシントンDC) 出典:Photo by Alex Wong/Getty Images
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