陰謀説の危険 その1 被害妄想の構図
Japan In-depth / 2022年5月8日 17時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本国内の一部で、「ロシア軍のウクライナ侵略はアメリカの秘密勢力によるものだ」という陰謀説が広がり始めている。
・陰謀説の主舞台になることが多いアメリカでは、陰謀は犯罪行為として定義され、研究も多い。
・陰謀説は実際には存在しない陰謀があるとする主張であり、「物事をあるがままには絶対に見ない」という誤った前提がある場合が多い
ウクライナ戦争などにより世界の激震が続くにつれ、日本国内の一部ではこの戦争や国際情勢全般にからんで陰謀説が広がり始めた。その多くがアメリカ側の動きに関してである。たとえば「ウクライナ戦争を仕掛けたのはアメリカのネオコンやディープステートだ」という説である。ロシア軍のウクライナ侵略の真の張本人はロシアではなく、アメリカ側の秘密勢力だという主張なのだ。
この種の主張は普通にみても根拠はない。その主唱者たちも具体的な証拠は示さない。ワシントンに長年、駐在してアメリカの国政を考察してきた私からみても、いまのアメリカでバイデン政権やロシアのプーチン大統領を動かす「ネオコン」とか「ディープステート」という秘密勢力が実在し、アメリカ、ロシアの両国の現政府に特定な行動をとらせる、などという気配はツユほどもない。
念のために注釈をつければ、ネオコンとはアメリカの保守主義者の一部にののしりをこめてぶつけたレッテル言葉である。ディープステートとは表面には出ない秘密の巨大な官僚的組織を指す。いずれの用語も本来、実態の不明な呼称なのだ。
だからこの種の正体不明の秘密勢力が今回のウクライナ戦争を仕組んだというのは、どう考えても陰謀説である。では陰謀説とはなにか、そして陰謀とはそもそもなんなのか。さらには陰謀説が国際情勢の正しい理解にとってどれほど危険なのか。自分自身の体験を踏まえて、その解説を試みたい。
陰謀説の主舞台になることが多く、その歴史も長いアメリカでは陰謀はconspiracy と呼ばれ、陰謀説はconspiracy theory と称される。単なる陰謀とは複数の人間が違法、あるいは不公正な行為を働くことをひそかに協議し、合意するという意味である。共謀とも呼ばれ、刑法にきちんと犯罪行為として定義されている。
一方、陰謀説というのは実際には存在しない、あるいはその存在が証明されない陰謀があるとする主張である。
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