コロナ感染爆発で金正恩体制痛手
Japan In-depth / 2022年5月17日 11時0分
韓国のある脱北者ユーチューバーは、北朝鮮の報道を鵜呑みにして、「今回の発表で、これまで北朝鮮で感染者がいなかったとの私の主張が証明された」などと頓珍漢で手前勝手なことを言っているが、感染者ゼロの状態から2週間あまりで一気に121万人もの感染者が出るわけがない。
この感染爆発の背景には、金正恩の権威を絶対化するための4月の金日成誕生110周年行事や、いわゆる「朝鮮人民革命軍(抗日パルチザン部隊)創建90周年」イベントに全国の住民や軍人を大量動員したことがある。
■ 感染を加速させた北朝鮮の劣悪な医療体制と虚偽報告の悪習
北朝鮮の劣悪な保健・医療状況は世界が認めるところだが、この劣悪な状況がコロナウイルスの蔓延を加速させた。それは労働新聞の報道を通じてもうかがうことができる。
新聞は、軽症発熱患者を治療する方法のひとつとして民間療法を紹介し、「スイカズラの花を一度に3~4グラムずつ、またはヤナギの葉を一度に4~5グラムずつお湯で煎じて1日に3回飲む」と説明した。また、口腔衛生を守るためには「塩水でよく口をゆすぐべき」と助言していたというから驚きだ。
こうした状況は、北朝鮮当局がワクチンや治療薬だけでなく診断キット、マスク、消毒剤、口腔用剤のような基本的な防疫物品すら十分に確保できていないことを示している。
これまでは都市のロックダウンや、国境封鎖などでなんとか拡散を抑え込み、発症した感染者を「かぜ」などと騙して隔離したり、死亡者に他の病名を付けて処理するなどの欺瞞策で、金正恩式防疫態勢を「先見性ある偉大な措置」などと宣伝し「感染者ゼロ発表」を続けてきたが、ついにその化けの皮がはがされることになった。
5月初めに中央防疫司令部から、中国でのコロナ感染拡大に注意を払いつつ、各道の非常防疫指揮部は防疫事業を綿密に行なえとの指示がなされ、同時に、防疫事業の実態点検のために、「交方検閲」(道間の相互検閲)を行うよう指示が下されたが、この指示も形式的に済まされていた。北朝鮮の悪習である面従腹背的報告習慣は根強く残っているということだ。
■ なぜ今大騒ぎなのか?
では、なぜ隠し通して来たコロナウイルスの拡散を今回大々的に公開したのだろうか。
まず考えられるのは、感染者が平壌を中心に同時多発的に伝播、拡散し、いわゆる1号行事(金正恩参席の行事)参加者から感染者が出たことだ。金正恩は金日成誕生110周年行事を利用し数万人の各部門参加者と写真を撮るなどの接触を行った。その中に感染者(軍人とも言われている)がいたということだ。また感染規模の広がりと感染速度の速さに驚愕して外部支援を要請するシグナルとして公開したとも考えられる。
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