プーチン大統領演説の欺瞞
Japan In-depth / 2022年5月18日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「自国の被害」「ウクライナ侵攻の正当化」を強調する身勝手なプーチン演説に怒りを覚え、荒れ果てた日本人墓地を思い出した。
・抑留され強制労働を科された日本人の墓地は放置されたままの無惨な光景だった。同じ日本人として胸が重くなった。
・あの戦争でのロシア人の悲劇を説くだけでは、いかに独善であり不公正か。ウクライナ侵略を正当化する理屈の虚構や偽善をプーチンは自覚せよ。
ロシアのプーチン大統領の対ドイツ戦勝記念日の演説を聞いて、つい思い出したのは荒れ果てた日本人墓地だった。その墓地はモンゴル共和国の首都ウランバートル郊外の淋しい丘にあった。
プーチン大統領の5月9日の演説はロシア人たちの第二次大戦での被害を強調していた。人間レベルでの悲劇や惨劇、そして犠牲だった。クレムリン前の赤の広場でのこの儀式の演説ではプーチン大統領自身がドイツとの戦いで重傷を負ったという父親の写真を手にパレードに参加していた。
「ロシアではかつての大愛国戦争によって傷つかなかった家族はいない。貴い命を捧げたヒーローたちのためにその子孫たるわれわれはいままた敬意を表する」
「あの大戦争で命を失ったすべてのロシア人への神聖な思い出にわれわれはいま深く頭を下げる。残虐なナチスを撃退し、みずからを犠牲にした人々の思い出に祈りを捧げる」
「われわれは伝統ある祖国の価値観、先祖たちの習慣やすべての民族や文化への尊敬の念を決して忘れることはない」
プーチン大統領は以上のような言葉をも演説のなかに織り込んでいた。そこだけ聞けば、とにかくロシア人たちがどれほどむごい被害にあってきたかの繰り返しの強調だった。その一部には他国の民族や国民への同情をも保つという響きもあったが、基本は自分たちの被害の力説だった。
写真)対ドイツ戦で負傷した父親の写真を手に行進するプーチン大統領(2022年5月9日 モスクワ)
出典)Photo by Contributor/Getty Images
プーチン大統領はそして、全体で4分間ほどのこの演説の残り部分のほぼすべてを今回のウクライナへの軍事侵略の正当化に費やしていた。
「ウクライナは核武装を計画し、ネオナチが勢力を広げた」
「ウクライナ作戦(軍事侵攻)はロシアの安全を守るための予防先制攻撃だ」
「ロシア軍はドンバス地域(ウクライナ領東部)でロシアの安全保障のために戦っている」
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