またしても「クルド人斬り捨て」か 気になるプーチン政権の「余命」その5
Japan In-depth / 2022年5月31日 7時0分
2011年から続くシリア内戦においても、クルド人の武装勢力がIS(イスラム国)と戦っていた時には、これを支持していたのだが、その後ロシアに支援されたアサド政権との協力関係を築くや、今度は「民主的勢力」に敵対している、と非難するようになった。
ダブル・スタンダードどころか掌返しである。
その上さらに、トルコが「国内のテロリスト集団(=PKK)」を支援しているとして、シリア国内のクルド人に対して越境攻撃まで仕掛けたが、これも黙認した。
すでに広く知られている通り、今次のロシアによるウクライナ侵攻も、「ウクライナ国内のネオナチ勢力がロシア系住民に残虐行為を働いている。これに掣肘を加えるための特殊軍事作戦である」
との大義名分のもとに行われている。ロシアが独立国ウクライナの領内に攻め込むのは許しがたいが、トルコが同じ事をするのはかまわないのだろうか。
一方スウェーデンなどは、トルコ政府による人権抑圧を強く非難し、武器輸出を禁ずるなどの制裁を課し、なおかつ10万人を超すクルド系難民を国内に受け入れているのだが、今回これがNATO加盟への障壁となってしまった。
前にも述べた通り、NATOの規定で、新規加盟には加盟国すべての賛成を得る必要があるのだが、トルコに言わせれば、
「わが国に制裁を科しているような国を、どうして同盟に迎え入れなければならないのか」
となる。
これも、私はすでに述べたことだが、トルコを説得するのは比較的容易だと考えられる。
すでに、北欧二カ国が代表団を派遣するなど外交交渉が始まっているが、トルコにすれば、その場しのぎの約束でなく、恒久的な制裁解除を要求するだろう。
そして、これまで米国はじめNATO諸国がクルド人問題にどう対応してきたかを振り返るならば、トルコの要求に沿ってクルド人問題は棚上げにされる可能性が大である。
「プーチンの戦争」について、前述の大義名分とはまた別に、NATOの勢力が東方に拡大してくるのを阻止したかった、というのが理由であることは、すでに衆目が一致するところだ。その結果「オウンゴール」を招いたことは、再三述べてきた通りである。
そうではあるのだが、読者諸賢には、ここで少し考えてみていただきたい。
「自由と人権を守るためのウクライナ支援」
の延長線上に北欧2カ国のNATO加盟があるとして、その実現のためにクルド人の政治的自由や人権が無視されるというのは、これもこれで「オウンゴール」と呼ばれても仕方ないのではないだろうか。
トップ写真:トルコ軍によるシリア北部爆撃に抗議する、クルド人活動家たち。(2022年2月2日、イギリス・ロンドンにて) 出典:Photo by Guy Smallman/Getty images
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