渾名禁止でイジメが減るのか 地名・人名・珍名について 最終回
Japan In-depth / 2022年6月29日 23時0分
まず、なにをもって禁止すべき渾名というのかが、よく分からない。
私が昭和の小学生だった当時、同級生を「さん」付けで呼ぶ習慣など、もちろんなかった。
つまりは渾名で呼ぶのが普通だったわけだが、伸一なら「しんちゃん」、美智子なら「みっちゃん」というようなことで、それがいじめにつながるなどと、誰一人考えていなかった。
ただ、よくよく思い出してみると、
「みっちゃん道々うXこ(一時伏せ字笑)たれて、紙がないから手で拭いて……」
という歌があった。私は当時から紳士的だったので本院の前で歌ったりはしなかったが、前述の世論調査から、この歌のことを急に思い出した。
ざっと10人のうち7人が、小学校時代に渾名を授かっていたのに、嫌な思いをしたことがある、という人が4割を下回るのは、おそらくこのあたりで「線引き」がなされているのだろう。
大体、小中学生がイジメを苦にして自死にまで追い込まれる事件は、繰り返し報じられるが、渾名を苦にして……という話は聞かない。担任教師まで加わって「葬式ごっこ」が行われたとか、自死の「リハーサル」を強要されたとか、裸の写真をネットで拡散されたとか、もはや名前の呼び方がどうこうといった次元の話ではなくなっている。
そもそも、渾名と呼び名は似て非なるものだ。
話を分かりやすくするために、ここでひとまず英語圏に目を転じると、もともとロバートならボブかロブ、リリャードならディッキー、スザンヌならスージー、レベッカならベッキーというように、名前の綴りの一部から決まった呼び名がつくので、とりたてて珍妙な渾名をつけられたり、それが問題視されることは滅多にないようだ。
ただ、背が低いとリトルなんとか、太っているとファットなんとか、と呼ばれることはあるらしい。これについては前述の通りなので、繰り返し語ることはしない。
ニクソン元大統領も名(ファースト・ネーム)はリチャードだったが、1972年に民主党本部に盗聴器が仕掛けられた、世に言うウォーターゲート事件が表沙汰になった際、大統領も関与したに違いない、との声が広まり「トリッキー・ディッキー」との渾名で呼ばれるようになった。その後、1974年に大統領辞任に至ったことは、よく知られている。
学力テストで、いわゆる引っかけ問題が「トリッキー・クエスチョン」と呼ばれることから分かるように、要はイカサマ師呼ばわりされたのである。
また『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)という映画を見て気づいたのだが、いじめっ子がいじめられっ子に対して、わざわざ姓の方で呼んでいた。ああ、こういうものなのか、と思ったのを今でも覚えているので、子供同士が「さん」付けで呼ぶようになればイジメが減るだろう、と言う発想には、ちょっとついて行けないものを感じる。愛称という言い方もあるほどで、渾名がむしろ親しみの表現である場合の方が多いのではあるまいか。
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