注目のゲリラ出身大統領、前途多難 コロンビア
Japan In-depth / 2022年6月30日 18時0分
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・南米コロンビアで先の大統領選決選投票で、元ゲリラの急進左派候補が当選、従来の新自由主義路線からの転換を目指す。
・しかし、新大統領の与党連合は議会少数派で政策実現は困難、対米関係の緊張も予想される。
・中南米の左翼化傾向が一段と鮮明になりつつあるものの、2000年代の“ピンクタイド”が再現されるかは疑問。
■ 経済界は開放路線修正を懸念
6月19日のコロンビア大統領選決選投票で勝利したグスタボ・ペトロ元ボゴタ市長は1980年代に勢力を誇った左翼ゲリラ「M-19」のリーダーだったことでも知られ、同国史上初めての左派大統領として8月7日に正式就任する。ペトロ氏は選挙戦では社会格差の是正をスローガンに、富裕層への課税を強化し、低所得層支援に重点を移す政策の実現を訴えた。
労働市場の自由化関連法の廃止、年金制度改革、大学教育の無償化などを公約としているが、最も特徴的なのは石油・石炭産業の縮小計画で、新たな石油探査活動の中止を主張。
さらに、国内産業保護を目的に関税を引き上げ、各国との自由貿易協定(FTA)の見直しも行うと明言している。コロンビア経済界や投資家の間で、市場経済・自由開放路線の修正は必至とみて新政権の経済政策への懸念が広まるのも当然だろう。
■ 議会での過半数確保難しい新政権
首都ボゴタの複数の有力紙はほぼ一様に、新政権は前途多難と報じている。“ペトロ大統領”の与党連合が議会で少数派であることがその最大の理由とされる。共産党を含む同連合は上院定数102議席中20議席、下院定数166議席中28議席を占めるにすぎない。
このため、「新政権は議会の中道系の政党や議員を取り込むことが不可欠だが、過半数を確保するのは容易ではない」(現地の有力政治アナリスト)との見方が有力である。議会対策のほか、年率9%に上るインフレ対策、増大する貿易赤字、国内総生産(GDP)の半分に相当する対外債務など経済面でも、新政権の前途には難問山積。外交面では対米関係が最大の注目点。米国はコロンビアと同盟関係にあり、自由貿易協定(FTA)を締結、麻薬取引対策でも緊密な協力関係を保ってきた。
バイデン大統領はぺトロ氏当選直後に電話で祝意を伝え、両国間の協力関係の維持を訴えた。しかし、ペトロ氏は、2019年以来断交している反米左派ベネズエラとの外交関係の再開を示唆している。「コロンビア新政権の下で対米関係冷却化の公算が大」という在ボゴタ外交筋の観測が現実味を帯びる。
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