無条件降伏と全生庵「高岡発ニッポン再興」その16
Japan In-depth / 2022年7月6日 18時0分
出典:Reggaeman / Wikimedia Commons
玄峰は、「わしの船は乗合船じゃ。村のばあさんも来れば乞食もくる。大臣もくれば、共産党もやってくる。みな乗合船のお客じゃ」
しかし、東條との面談だけは拒みました。
「我見にとらわれたまま会っても、わしの言うことは分からんじゃろう。せめて幼稚園の子供のような心境になって、全てを捨て切った東條さんなら、わしの言うことも多少は分かるじゃろうが」
そして玄峰はいよいよ、終戦工作に動きます。恩赦で出所した四元は42年ごろから「東條を倒さなければ、日本民族が滅びる」と考え、重臣との面談を重ねていました。その中で最も感銘を受けたのが、枢密院議長の鈴木貫太郎でした。
45年3月下旬、山本玄峰は四元の仲介で、鈴木と面談しました。当時、鈴木は首相の職を受けるかどうか悩んでいたのです。四元は後のインタビューで、こう語っています。
「玄峰老師が真っ先に言われたのは、『こんなばかな戦争はもう、すぐやめないかん。負けて勝つということもある』ということでした。鈴木さんも『すぐやめな、いかんでしょう』と、意見が一致したんです」
その10日あまり後の4月7日、鈴木は首相に就任したのです。それからの4カ月は鈴木にとって、陸軍との駆け引きの毎日でした。本音では戦争終結を志向しながらも、それを表に出すと、クーデターを誘発しかねない。戦争遂行のふりをしながら、チャンスを待ったのです。
鈴木は8月12日、玄峰に使者を通じて終戦の決定を下したと伝えました。玄峰はこの日すぐに手紙を書きました。
「貴下の本当の御奉公はこれからでありますから、まず健康にご注意下され、どうか忍びがたきを忍び、行じがたきを行じて、国家の再建に尽くしていただきたい」。
昭和天皇は8月15日の玉音放送で「忍び難きを忍び…」と国民に語り掛けました。3日前の玄峰の手紙がベースとなったと伝えられています。
私は前回と今回、全生庵をめぐる2つの政治決断について書かせていただきました。「江戸城無血開城」と「無条件降伏」です。私は政治家の端くれとして、さまざまな政治決断を下さなければなりません。
トップ写真:全生庵 筆者提供。
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