NATO首脳会議、トルコ外交の評価
Japan In-depth / 2022年7月6日 23時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#27」
2022年7月4日-10日
【まとめ】
・スペインで開かれたNATO首脳会議でトルコが強硬姿勢から一転、フィンランドとスウェーデンの加盟を支持した。
・今回のトルコ外交は短期的な成果を上げることができたが、中期的に「見事な成果」を出したかどうかは、疑問である。
・外交で誰が最終的に如何なる利益を得たかは、現代のマスコミではなく後世の歴史家が判断すべきである。
今週は久しぶりにトルコ外交を取り上げる。先週スペインで開かれたNATO首脳会議ではトルコが事前の強硬姿勢を一転し、フィンランドとスウェーデンの加盟を急転直下支持した。ある日本のネット・メディアは、「トルコ外交の見事な駆け引き、歴史ある国家の外交とはこういうものか」と題する論評を掲載していた。おいおい、何だって?
同記事は、両国が「トルコからのテロ容疑者引き渡しの仕組みを強化、国内法の整備も確約した。これまでは禁止してきたトルコへの武器禁輸措置までも解除する。・・・両国の足元を見ながらのトルコ外交の駆け引きは見事としか言いようがない。」などとトルコを礼賛する。でも、本当に「見事な外交」か否かは歴史が決めることじゃないの?
外交を「国家間で何らかの結果を出すための交渉」と定義すれば、今回のトルコ外交は、米国からF16戦闘機売却も勝ち取るなど一定の成果を上げている。しかし、この種の外交的成果には「短期的」と「中長期的」なものがある。個人的には、今回トルコが中長期的に「見事な成果」を出したかどうかは、疑問なしとしない。
誤解を恐れずに申し上げる。外交の世界では「短期的成果」を出すこと自体、さほど難しいことではない。もしある国が外交上の切り札を持ち、かつ、一切の妥協を排してでも、その切り札を切ると凄めば、交渉相手は譲歩せざるを得なくなるからだ。その意味で今回のトルコの切り札はフィンランドとスウェーデンの「NATO加盟反対」だった。
確かに対露関係では、万一首脳会議の場でトルコが反対でもすれば、NATOにとって致命傷にもなりかねない。この点については「“ごね得”エルドアンの損得勘定」などと報じた記事もあったが、決して的外れな指摘ではない。こうした「エゲツナイ」外交を「見事な駆け引き」と呼ぶかは個々の記者の「美意識」の問題だろう。
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