安倍晋三氏を悼む
Japan In-depth / 2022年7月25日 13時1分
そんな安倍晋三氏が国政の階段を着実に、しかもスピードを増しながら昇っていくのを私は期待をこめて考察していた。安倍氏は日本を普通の国にすることを目指していた。主権国家としての自らを守るという国家安全保障面で自分の手足を縛りつけている半国家の日本を民主主義の正常な国にするという志向だった。
この志向は保守でもナショナリズムでもない。もちろん軍国主義でもない。日本を他の諸国と同様のバランスのとれた独立国家にするという目標への自然な動きだった。近年の日本は経済の繁栄、社会福祉の保障、国内の秩序、安全、さらになによりも国民の民主主義的な自由と権利などが保証された立派な国である。ただし自国の安全保障という基本の枠組みについてだけは大きな欠陥がある。
アメリカ占領軍が書いた憲法により自国の防衛も、他国との防衛のための連帯もふつうにはできない呪縛を自身に課したままなのだ。そのきつい呪縛を除き、大きな空白を埋め、バランスのとれた正常な国にする。この目標が安倍氏の念願であることは明白だった。
安倍氏は2006年9月に戦後では最も若い日本の総理大臣になった。その当時の安倍氏に対しては日本でもアメリカでも根拠のない非難や誹謗が激しかった。慰安婦問題のような歴史課題もからんで、安倍氏には「右翼」「タカ派」「ナショナリスト」というような負のレッテルが貼りつけられることが多かった。日本の朝日新聞が象徴する左翼の政治活動家、学者が野党の一部と連帯しての「安倍叩き」だった。
この安倍叩きはアメリカ側でも左派の日本研究学者や一部のリベラル・メディアが同調していた。そのなかには安倍氏を「軍国主義者」とか「歴史修正主義者」「戦前への復帰主義者」などと断ずる、おどろおどろした誹謗もあった。安倍晋三氏の悪魔化とも呼べるデマゴーグ的な悪口雑言だった。
自分たちが嫌い、憎む対象を現実とは異なる悪の存在に重ねあわせて叩くのが、この悪魔化である。この種の安倍叩きは日本でもアメリカでも、日本が正常な民主主義国として自主自立の道を歩むことへの反対に由来していたといえる。
そんな時期にワシントン駐在の産経新聞特派員だった私にアメリカの大手紙のニューヨーク・タイムズから安倍新首相についての記事を書くという寄稿の依頼があった。この要請は当初は意外に思えた。なぜならそのニューヨーク・タイムズこそがアメリカ側での安倍叩きの主要舞台だったからだ。
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