日銀金融政策へのマーケットの反応 なぜ批判的な声が出るのか?
Japan In-depth / 2022年7月28日 14時0分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・日本銀行は賃金や企業収益の増加と並行したインフレが2%の状態を安定的に実現するまでは金融緩和スタンスを動かさない方針。
・企業が守りのときの超金融緩和の長期化は、ビジネスモデルの延命になりかねず、企業の挑戦意欲をさらに弱めることにもなりかねない。
・経営資源の投入分野の変化なくして、日本経済の潜在能力は高まらない、という不安がマーケットからの否定的コメントに繋がっている。
グローバル経済がインフレに見舞われる中で、欧米の中央銀行はその抑制に政策の主眼を置いている。これに対し日銀は異次元緩和を堅持し、1ミリも動く気配はない。そういう日銀の政策スタンスに対し、金融市場や経済界から批判的なコメントも寄せられる。現在の日本のインフレの主たる原因は、円安と言うよりは輸入品の価格上昇だ。さらに、世界経済は景気後退に見舞われるとの見方も出てきた。そうした状況で、まだ2%ちょっとのインフレの日本で利上げはないという日銀の判断に対し、どうしてマーケットから否定的なコメントが出てくるのだろうか。
■ 日本のインフレの現状
日本の6月の消費者物価(総合)の前年比は+2.4%。これは、基本的に財(=モノ)の価格上昇によるものであり、サービス価格はまだ際立って上がってはいない。サービス価格には、賃金の影響が財以上に強く出る。サービス価格が目立って上昇していないということは、まだまだインフレと賃金上昇が併存する状況ではないということだろう。2%のインフレ目標は、ホームメード、すなわち賃金や企業収益の増加と並行したインフレを念頭に置いている。そうでなくては、何のためのインフレなのかということになる。日銀は、そのホームメードの2%インフレが安定的に実現するまで、現在の金融緩和スタンスを動かさないと言っているのである。
そもそも日本では、米国のように8%、9%のインフレになっている訳ではない。かつ、今のところ近い将来そうなるとも予想されていない。さらに、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の2022年の世界経済の成長率見通しは、徐々に低下している。インフレと景気後退が同時に起こる「スタグフレーション」という言葉も良く聞かれるようになった。そうした日本経済が置かれる現状を踏まえれば、利上げなどあり得ないという立論にも合理性はある。
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