米安保エリートの危うい北朝鮮論
Japan In-depth / 2022年7月29日 23時0分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・北朝鮮に対する「最悪の妥協」の1シナリオとして挙げられるのは、ロバート・ゲイツ氏の議論が実現した場合。
・彼は北朝鮮が「10数発から20数発まで」の核兵器を保有することを認め、北朝鮮を国家承認し平和条約締結の準備に入り、在韓米軍の再編成も行う。見返りとして北朝鮮はミサイルを「非常に短い射程」のものに留めると約束する。
・米国に届く長距離核ミサイルは認めないが、日本や韓国に届く核ミサイルは認める点で露骨に宥和的かつ「アメリカ第一主義」的な取引案。
ウクライナと台湾に国際的関心が集まる中、北朝鮮が忘れられがちとなっている。しかし北が核実験に踏み切った場合、一気に半島危機の再燃となりかねない。
バイデン政権はどう出るか。はっきり言って不分明である。日本としては、最悪の展開も念頭に、早め早めに米側に釘を刺していかねばならない。以下、「最悪の妥協」の1シナリオを提示しておこう。
共和党政権でCIA長官、国防長官、さらに民主党オバマ政権でも国防長官を務めた(その間、副大統領バイデンと同僚の関係にあった)ロバート・ゲイツの議論である。
ゲイツが回顧録に記した「ジョー(バイデン)は過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた」との発言はよく知られている。
しかし実は、ゲイツの判断力もあまり当てにならない。
数年前、ウォールストリート・ジャーナル紙(以下WSJ)に掲載されたゲイツの対北政策論を見てみよう(2017年7月10日)。
ゲイツにインタビューを行い記事にまとめたジェラルド・シーブ同紙ワシントン支局長は、冒頭、「いずれも不完全な対北オプションの中で、最も希望を持てるものは何か。この問いに答えるに、過去半世紀を通じて最も安全保障分野での要職経験が豊かなゲイツ氏以上の適任者はまず見当たらない」と持ち上げている。
ゲイツ(1943年生)は、CIAの分析部門で約26年を過ごし、副長官まで内部昇進した上で、ブッシュ父政権時にCIA長官に就任した。良くも悪くも米情報機関の主流派エリートを代表する人物である。
その後、ブッシュ長男政権の後半からオバマ政権の前半にかけて、継続して国防長官を務めた。すなわち、共和、民主にまたがる穏健派勢力一般から安保政策通として評価されてきたと言える。
さて、インタビューでゲイツはまず、朝鮮半島における全面戦争の危険と破壊の大きさを考えれば、軍事力行使は選択肢とならないと指摘する。そして「新たなアプローチ」として、中国に次の提案を行うべきだと言う。
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