「我々はもう一度勝てる」とロシアは言う(下) 戦争と歴史問題について その3
Japan In-depth / 2022年8月16日 7時0分
それでも当初、ナチス・ドイツ軍の攻勢はすさまじく、首都モスクワのおよそ40キロ手前(平坦な地形ゆえ、丘の上から市街が一望できたと伝えられる)まで迫ったが、そこから押し戻され、ついにはベルリンを占領されるに至ったのだ。
こうした歴史があるので、私などはてっきり、ソ連邦時代は毎年祝賀行事を行っていたのかと思っていたのだが、今次も取材に応じてくれたロシア人女性によると、大規模な祝賀パレードが行われたのは、終戦の年である1945年から、65年、85年、95年という節目の年だけであったそうだ。
そう言われて、あらためて考えてみれば、毎年のように新兵器を披露する軍事パレードは革命記念日であった。11月7日で、ソ連邦が樹立されたのは「十月革命」だが、これは当時のロシア帝国が旧暦を採用していたためである。
ところが2000年代に入り、ウラジミール・プーチン大統領の時代となってから、様相が変わり始めた。
前述の「大祖国戦争終結記念日」が重視されるようになり、毎年のように祝賀行事が催されるようになったと聞く。そればかりか、軍人の功績を称える「ベテランの日」も、政府が後押しするイベントに変わった。
ベテランとはこの場合「帰還兵」の意味で、もともと民間で行われていたものだが、2015年以降、政府が関与して、今や日本を含む世界43カ国のロシア人コミュニティーで開催されるイベントになっている。
写真)大祖国戦争記念日の祝賀パレード(2022.6.24)
出典)Photo by Kirill Yasko - Host Photo Agency via Getty Images
プーチン政権がウクライナ南部クリミア半島に兵を進め、実効支配したのが2014年のことであるから、このことと無関係だと考えるのは難しいだろう。
こうした愛国プロパガンダの流れは、教育現場にも及んでいる。
かつては、つまりソ連邦の時代も含めて、小学校では戦争の歴史などはほとんど教えず、中学生になってから歴史が正課に取り入れられたのだが、今や小学生も「大祖国戦争」について学ぶようになっている。こうした愛国プロパガンダのスローガンは、
「我々はもう一度勝てる」
というもので、アフガニスタンやチェチェンにおける戦役についても、わが国は常に正しかった、と総括されている。そればかりか、小中学校の教師が、この戦争はおかしい、などと発言しようものなら、生徒に密告されてしまうのだとか。
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