南シナ海名称変更 比議会に法案提出
Japan In-depth / 2022年8月16日 11時0分
さらに今後「西フィリピン海」という名称をフィリピンの全ての公的文書を含む文書で使用し、通信でも使用、国内外でも使用を義務付けるという内容も含んでいる。
フィリピン外務省は「西フィリピン海」という呼称はすでに2012年に提唱されているが広く普及するには至らなかったとしている。
マリア・テレシタ・ダザ外務省報道官はトレンティーノ上院議員の法案提出について「この法案の内容は2016年の常設仲裁裁判所の裁定に沿ったものであり、可能な限りバックアップしたい」と歓迎を明らかにしている。
2012年にすでに一度提唱されている「西フィリピン海」の呼称だが、ドゥテルテ前大統領は中国への配慮から使用に消極的だったこともあり、ドゥテルテ前大統領が任期満了で退陣し6月30日にフェルディナンド・マルコス新大統領が就任した機会をとらえての法案提出となった。
南シナ海という名称に関してはベトナムも反発しベトナム東方海域を「東海」と呼んでいるほか、インドネシアも南シナ海のほぼ南端にあたるインドネシア領ナツナ諸島の北方海域を「北ナツナ海」と独自に呼ぶなど中国の一方的な「九段線」に対抗する姿勢を示している。
写真)米国とフィリピンが共同水陸両用軍事演習を実施(2022.3.31)
出典)Photo by Ezra Acayan/Getty Images
★ マルコス新大統領の対中姿勢
南シナ海の領有権問題に関してドゥテルテ前大統領は口では厳しい姿勢を示すものの、経済支援への依存から実質的な抗議活動は控えめだった。
任期中の2021年11月にフィリピンが座礁船に海兵隊を常駐させて実効支配する南シナ海のアユンギン礁に中国の海警局船舶が海兵隊に物資を運ぶ民間船舶に対して進路妨害、放水銃による放水などで妨害する事件が発生した。
この際も民間船舶はフィリピンのEEZ内にあるアユンギン礁に到達することができずにマニラに引き返さざるを得なかったが、ドゥテルテ前政権は中国への形だけの抗議で済ませたという経緯がある。
そうしたドゥテルテ前大統領、前政権による中国への「弱腰外交」ともいえる姿勢がマルコス新大統領政権でどう変わるのかが注目されている。
マルコス新大統領は選挙キャンペーン中に「南シナ海問題ではフィリピンの領土を1ミリメートルも譲らない」と中国に強硬な姿勢をみせ、7月26日に行われた初の施政方針演説でも「フィリピンの領土保全と国家主権に対する現在および将来の安全保障上の脅威に敏感な国軍の軍事構造の変革を図る」と述べ、直接中国や南シナ海の名指しを避けながらも「領土保全」への決意を新たにした。
こうしたことからドゥテルテ前大統領よりマルコス新大統領は中国に強い姿勢を示すものとの期待が国民の間には広がっている。
しかし中国の「一帯一路」構想に基づく多額の経済支援や大型インフラ整備、投資などの経済支援がフィリピン経済の屋台骨の一部となっているという事実の前に、どこまで対中姿勢を変化できるのか疑問視する見方も強い。
安全保障ではフィリピンは米国と同盟国であるものの、経済では中国への依存度が高いという現実の中でマルコス新大統領の外交安保と経済のバランスを取りながらの政権運営が求められている。
「西フィリピン海」への名称変更は国際的には普及が難しいものの国内では徹底することが可能で、その点でも手腕が試されることになる。
トップ写真:軍事パレードを謁見するマルコス新大統領(2022.6.30)
出典:Photo by Ezra Acayan/Getty Images
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