書評:「辺野古入門」熊本博之著
Japan In-depth / 2022年8月22日 21時0分
他方で、条件付き容認に傾く辺野古区の有力者たちにとって、元来保守でありながら反対派に転じた彼は、人望が厚く人脈もあるだけに、厄介な存在である。反対派、容認派両サイドから疎まれた西川氏は、「辺野古問題」の矛盾を体現する人物と言える。
辺野古の一般住民は本音を語りたがらない。集落内に親類が多く、人間関係の密度が濃いため、対立を孕む話題は避ける。また、考えが揺れ動き、口ごもるケースも多い。
記者たちは、余り辺野古集落を訪れない。住民たちから率直なコメントが取りづらいからだ。むしろ、「絵」になる、シュワブ第一ゲート前での集会や座り込みの方へ流れる。著者は、住民たちの思いがスルーされ、埋もれてきたことを目の当たりにする。
▲写真 キャンプ シュワブの拡張の為の建設車両に抗議するデモ隊(2018年 5月31日、沖縄県名護市) 出典:Photo by Carl Court/Getty Images
熊本氏は、辺野古に頻繁に通い、住民と信頼関係を築いていく。居酒屋で知人と酒を飲むうちに、初対面の人から誘われ、はしごすることもあった。アルコールが入り、話が盛り上がると、本音が漏れることもある。
住民たちの発言の内容が屈折することもある。その典型は、「本当は、辺野古移設には反対だ。でも、結局基地はできるんだろう。反対ばかりしていてもねえ」という類のものだ。その歯切れの悪さに、逡巡と諦めがにじむ。
■辺野古区とキャンプ・シュワブの「平和共存」
フィールドワークを続けるうちに、熊本氏は、辺野古区が海兵隊基地キャンプ・シュワブと密接な関係を築いてきたことに気づく。
辺野古区・シュワブ関係の歴史は長い。沖縄が米軍統治下にあった1955年に、辺野古の広大な土地を接収し、海兵隊基地を建設すると予告される。その際、区の有力者たちは、米軍側と粘り強く交渉し、接収には応じつつ、彼らの要求を通す術を身に着けた。
また、著者は、辺野古区とシュワブがさまざまな形で交流してきた事実に注目する。米軍基地に対する同区の柔軟な姿勢に、「平和共存」のための知恵を見出す。
同時に、辺野古区民は、シュワブとの良好な関係にあるがゆえに、シュワブ内に建設される施設には反対しにくい自縄自縛の状況が生まれた、と著者は考える。さらに、区のリーダーたちが、従来の発想で現在の「辺野古問題」に対応しようとすることに、危うさも感じる。
キャンプ・シュワブをめぐる交渉相手は、米軍であった。だが、「辺野古問題」の主な当事者は、日本政府である。しかも、県、名護市、本土の大物政治家なども関わる。「辺野古問題」の交渉は、辺野古区が切り回せるほど単純ではない。
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