“コロナ留年”の議論から逃げないことの重要性
Japan In-depth / 2022年10月8日 7時0分
欧米では国からのお金は基本的に、学生に対して奨学金という形で向かいます。そのため、学生はその奨学金を元手に、自分が何を学びたいか、そのためにはどこの大学が最適かを評価・判断し、結果として、学習環境のサポート体制等が充実している大学に、優秀な学生が集まるという仕組みができています。そのため大学側も、国を見るのではなく学生からの視線を重視し、彼らの声を拾い上げ、教育環境の充実に力を入れます。組織全体として優秀な教員、研究者の確保に必死であり、出入りも激しいですが、結果として学生からの評価に最も力点が置かれる組織づくりが実現されています。
一方で日本では、国からのお金は私たち学生にではなく、大学に向かいます。そのため大学も、私たち学生ではなく、基本的には文科省や厚労省など、政府の意向を非常に重視します。政府や大学の方針に対して意見する研究者や学者は、“異端”として干されてしまうため、基本的に大学教員が国の問題や方針に対して声を上げることは多くはありません。そして、その傾向は学生にも見受けられます。“東大コロナ留年問題”は、東大生全員が授業をボイコットして、学部の対応の是正を求めてもよいぐらいの事象であると、私は感じます。かつて1960年代に、医学部の処分問題や大学運営の民主化などの課題のために立ち上がった彼らですが、今回の件では、誰も立ち上がろうとはしません。
それも仕方のないことだと思います。大学の成績はブラックボックスです。“東大コロナ留年問題“で声を上げた杉浦蒼大さんは、異議申し立てを行った後で減点されたことの理由に関して、未だ、東大側から直接の説明は受けておりません。(東大はメディアに対して、減点の理由が成績の入力ミスによるものであったと述べています。) その上、東大側は単位が認定された学生に訂正の機会が与えられない現行の制度を見直す余地はなく、また、成績評価に誤りはないことが前提となっていると、日本の政府にありがちな、伝統的な無謬性の原則を示しています。
声を上げることで自分に不利益が生じてしまうかもしれない状況で、立ち上がることは大変勇気のいることです。一体これまでに何人の学生が、光の当たらないところで不当な成績評価を受けてきてしまったのでしょうか。他人事として目を背ければうまくいく。そのような”ことなかれ主義“が蔓延してしまっているのが、今の日本の大学です。東大が世界で高い評価を受ける大学であり続けるためにも、杉浦さんが今回勇気を出して立ち上がったことを、内部で揉み消し、なかったことにしてしまうようなことは、決してあってはならないと思います。
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