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いまなぜ日本核武装論なのか

Japan In-depth / 2022年11月2日 23時24分

戦域核とはロシアが使用を示唆する戦術核よりも射程距離の長い(1千キロから5千5百キロ)核兵器である。中国は数百の単位で保有する。ヨシハラ氏はアメリカがこの戦域核レベルでの抑止力を東アジアではほとんど保持していないと述べた。


アメリカは旧ソ連との中距離核ミサイル全廃条約の結果、アメリカ本土から中国に届く戦略核は多数、保持していても中国に近距離から届く中距離核はゼロに近いままだというのだ。アメリカと中国との戦域核レベルでの核抑止の威力はアメリカがほぼゼロなのに対して中国は数百という不均衡というわけである。


となるとアメリカが同盟国を守る拡大核抑止の効果が弱くなる。日本にとってアメリカの拡大核抑止の確実性が揺らぐ危険性だともいえる。拡大核抑止とはアメリカが同盟国への核の威嚇や攻撃を抑止し、報復するために、最悪の事態にはその敵に対して核兵器を使用するという誓約である。この誓約があれば、中国や北朝鮮は日本に対しての核恫喝はかけられないことになる。


だがアメリカがその戦域核を日本周辺の東アジアではほとんど保有も配備もしていないとなると、日本への拡大核抑止の「核の傘」が骨抜きとなってしまう。


この点を補う趣旨での日本の核武装奨励論がアメリカの学界で最近、出たことは日本側でも認識しておくべきだろう。







▲写真 ソウル駅で北朝鮮のミサイル発射のニュースを見る市民。北朝鮮は短距離弾道ミサイル(SRBM)を2発発射した(2022年10月28日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images


東アジアの安全保障のベテラン専門学者でイリノイ大学政治学部教授のソンファン・チェ氏がワシントンの月刊誌「ザ・ナショナル・インテレスト」の最近号に発表した「適切な時期=なぜ日本と韓国が核兵器を保有すべきか」と題する論文だった。


論文の要旨は以下だった。


「東アジアで中国と北朝鮮という二つの敵性国家がともに核兵器の脅威を高める現状ではアメリカは拡大核抑止の責務の一部を同盟相手の日本と韓国に託すために両国の核兵器保有を奨励すべきときがきた」


チェ教授はアメリカがそのためにまず日本を優先して核兵器開発を奨励することを提唱していた。この意見はあくまでアメリカの民間の一部の主張である。


アメリカ政府は核拡散防止態勢の基本を変えてはいない。だがいまの核論議はなにか変化の予兆をも感じさせるのである。とくにアメリカの長年の日本に対する拡大核抑止の保護の効果が薄れてきたのだ、というアメリカ側の認識は日本にとっても重要だろう。


日本側が核兵器の絶対悪という側面だけをみて、被爆国としての核兵器全廃の訴えを叫ぶことも理解はできる。だが核兵器こそが自国の防衛には絶対必要だとみなすだけでなく、自国の要求を他国に呑ませる手段としても不可欠だと考える国家群が、それこそ「引っ越しのできないすぐ隣」に存在する現実に目を閉じてしまうこともできないだろう。


トップ写真:フロリダ・メモリアル大学でのイベントに登壇するバイデン米大統領(2022年11月1日 フロリダ州マイアミガーデンズ) 出典:Photo by Joe Raedle/Getty Images


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