バイデン政権の核戦略の弱点とは
Japan In-depth / 2022年11月5日 23時0分
現にアメリカと中国・ロシアとの核抑止の構図では低次元での不均衡が目立つ。
核戦力は核兵器の運搬手段の距離により、短距離(戦術核。射程距離が500キロ以内)、中距離(戦域核。500キロから5500キロまで)、長距離(戦略核。5500キロ以上)に3区分されるが、アメリカは短距離、中距離の地上発射核ミサイルは保有ほぼゼロである。一方、ロシアと中国は1000基以上、数百単位と、それぞれ多数の兵器をこの短距離と中距離のレベルで保有している。
このため日本周辺でも中国が短・中距離の核兵器の使用を示唆して、威嚇をかけた場合、アメリカ側はその同じレベルでの核の報復や攻撃という抑止の手段を持っていないことになる。日本の防衛のためにもアメリカが同盟国として核抑止力を実効に移すという「拡大核抑止」の効用も薄くなるわけだ。この部分の不均衡を埋めるという目的で開発が決められたのが小型、低威力の海上発射核巡航ミサイルだった。
アメリカ軍部はこの新型ミサイルの開発を歓迎し、2018年には当時、陸軍参謀総長だったミリー将軍が議会で「アメリカの柔軟で計算された核抑止戦略にとって必要な核兵器だ」と明確な賛意を表明していた。ミリー将軍は2019年に統合参謀本部議長に任命された際の議会証言でも同様にSLCM-N開発の推進を主張していた。
ところがバイデン政権はこの新兵器の開発には消極的となり、2022年度の国防予算では研究と調査に1100万ドルの予算をつけただけとなった。そのうえに今年3月に公表された2023年度国防予算ではSLCM-Nの開発はキャンセルとなり、そのための経費は全面カットとなった。その背景には民主党内の軍事忌避傾向の強いリベラル左派の議員たちからの「その核兵器開発の費用を社会福祉などに回せ」という趣旨の強い要求があった。議会調査局ではSLCM-Nの開発費用は2030年までに合計100億ドルほどになると推定している。
しかしウクライナ戦争でロシアのプーチン大統領が戦域核兵器使用の可能性を示したことなどでアメリカの軍部や共和党側でのSLCM-N開発を求める主張が改めて強くなった。
前記の議会公聴会でも、SLCM-Nに関しては米軍戦略司令部のチャールズ・リチャード司令官と米軍欧州司令部のトッド・ウォルターズ最高司令官の2人もバイデン政権の政策とは反対に開発支持の立場であることがこの両司令官からの直接の書簡で発表された。下院軍事委員会の共和党メンバーのダグ・ラムボーン議員がその書簡を公表した。
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