土光敏夫に学ぶ「個人は質素に、社会は豊かに」 「高岡発ニッポン再興」その36
Japan In-depth / 2022年11月7日 18時0分
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・民間人として初めて勲一等旭日桐花大綬章を生前に授与されることになったのは土光敏夫氏。
・個人は質素に、社会は豊かになる。
・現代版の「土光敏夫」といえる北海道知事の鈴木直道氏がいる。
「秋の叙勲」シーズンです。富山県内からは50人が受章しました。旭日小綬章は、県中小企業団体中央会会長の高田順一さんら5人です。本当に、おめでとうございます。
「秋の叙勲」で私にとって印象深いのは、1986年11月5日の授与式です。「メザシの土光さん」と知られた経済人、土光敏夫が、民間人として初めて勲一等旭日桐花大綬章を生前に授与されることになったのです。行政改革の旗振り役だったことが評価されました。
私は当時、まだ大学生。実際に取材したわけではありませんが、かつてテレビ朝日の残っていた映像を見て心打たれました。
皇居宮殿の正殿、松の間、最初に姿を見せたのは、昭和天皇です。その後、土光は式部官に車椅子を押され、姿を現しました。松の間の傍らに立つのは、総理大臣の中曽根康弘です。勲章を渡そうとする昭和天皇を前に、土光は車椅子から何度か立ち上がろうとします。おそらく昭和天皇に対して、自分が車椅子に座ったままでいることを失礼だと思っていたのでしょう。
前月に頭部の手術を受けるなど、土光の体は既に立つことすらままならない状態だったのに、必死な様子が浮かび上がります。
この叙勲に関して、土光は次のようなコメントを残しています。
「私は『個人は質素に、社会は豊かに』という母の教えを忠実に守り、これこそが行革の基本理念であると信じて、微力を捧げて参りました。幸い国民の皆様の理解と協力を得られ、私の役目をつつがなく了えることができました。今回の受章を国民の皆様と共に心から喜びたいと思います。(以下省略)」
土光と言えば、東芝など巨大企業を立て直し、晩年は、行政改革に汗を流しました。国鉄や電電公社の民営化など、「抵抗勢力」と向き合い、戦後最も大きな成果を出した改革者です。
質素な生活を貫き、社長になっても満員電車で通勤。月給は10万円ほどでした。土光は「個人は質素に、社会は豊かに」という母の教えに従って生きてきたのです。
こうした土光の生き方は多くの人の共感を呼んだのです。例えば、ソニーの創業者、井深大です。井深は「日本で最も尊敬できる人は誰かと聞かれれば、無条件に『土光さん』と答えたい」と語りました。
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