忘れえぬ江沢民・クリントンの応酬 首脳同士の丁々発止、かくあるべし
Japan In-depth / 2022年12月3日 18時0分
■ 沈黙すれば黙認となることを恐れる
このやりとり、10数分は続いただろう。記者会見というにはあまりに激越な論争だった。
筆者のメモには、「首脳の論争かくあるべし」と書き込まれている。
当時、米中関係は比較的良好であり、この江沢民訪米が翌年6月のクリントン訪中実現につなげようという思惑から、双方とも雰囲気を損ないたくないと考えていた。
しかし、両首脳とも、ここで自ら言うべきことを言わなければ、相手の主張だけが伝えられ、自ら、それを黙認したと受け取られることを恐れたのだろう。
江沢民死去のニュースを聞いて真っ先に思い出したのが、この記者会見だった。それだけ強烈な印象だったせいもあるが、もうひとつの理由は最近の記者会見では、緊張感などかけらもなく、ときに国益を大きく損なうようなケースが散見されるからだ。
ひとつ例を紹介する。20年11月に中国の王毅外相(現国務委員兼外相)が来日、茂木敏充外相(当時)と会談した際の共同会見だ。
▲写真 王毅外相(現国務委員兼外相)と茂木敏充外相(当時)共同会見(2020年11月24日 東京) 出典:外務省
ホストの茂木氏に次いで発言した王氏は、その最後で、「釣魚島(尖閣の中国側呼び名)の情勢、事態を注視している。ひとつの事実に触れたい」と口を開き、会場の関心を引き付けた。
「真相をわかっていない日本の漁船がこの水域に入る事態が起きている。中国側としてはやむをえず、必要な反応をしなければならない。引き続き主権を守っていく」と述べ、法令に従って操業している日本漁船を不当に非難。「敏感な水域で事態を複雑にする行動は避けるべきだ」と言い放った。
主権侵害はどちらか。「盗人猛々しい」ともいうべき王毅発言に茂木氏はどういうわけか愛想笑いをうかべるだけで一言も発することはなかった。
第3国の人が聞いて、茂木氏は王毅氏の主張を受け入れたと解釈されてもやむをえまい。
江沢民ークリントン会見での攻防と王毅ー茂木会見の落差はどうだろう。
■ 激しい論争も決定的な関係悪化に至らず
江沢民ークリントン共同会見には後日談がある。
会見では両首脳とも硬い表情を崩さなかったが、両氏は意外にウマが合ったらしく、翌98年には、クリントン大統領の国賓訪中が実現。中国以外には一切立ち寄らないにもかかわらず9日間にわたる長逗留で世界を驚かせた。
大統領が日本に立ち寄らなかったことに失望した日本国民の一部から“ジャパン・パッシング”などという自嘲的な言葉がささやかれた、あの時だ。
双方が激しい舌鋒を繰り出しても、不本意な形で両国関係が損なわれることはなかった。これこそ、真の大国同士の関係だろう。
トップ写真:江沢民元中国国家主席とクリントン米大統領(1997年10月29日 ホワイトハウス) 出典:Photo by Diana Walker/Getty Images
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