イデオロギーの重要性の増大【2023年を占う!】国際情勢⑥
Japan In-depth / 2022年12月19日 11時51分
自由民主主義を信奉しないことを宣言する中国にとっても、自国の共産主義というイデオロギーの正当性を強調することが自国の存在意義の誇示にもつながる。中国はアメリカとの対決を厳しくすればするほど、イデオロギー面での対アメリカ闘争も激しくする、という構図である。
だが日本にとってはこのイデオロギーの重要性の増大も、意外な難題だといえよう。日本は官民ともに自国が立脚するイデオロギーを対外的に明確に説く作業は苦手のようである。現実に日本が他国との関係において自由民主主義の効用を強く論じるという動きは戦後の長い日本外交でも少なかった。日本にはむしろその点でのためらいがあったとさえいえよう。
戦後の日本は疑いなく自由民主主義の理念を全面的に受け入れ、実現してきた。だがその事実を力強く説くことには複雑なためらいが散らついてきた。とくに中国や北朝鮮という近隣の非民主的な独裁国家に対して民主主義の大義を説き、相手側の非民主的な独裁支配を非難するという行為を実際にとることは、きわめて少なかったといえる。
その理由はやはり日本の敗戦という歴史の重みだと思われる。日本自身が終戦までは非民主主義の国家だったと戦勝国から断じられ、戦後はその断罪を黙って受け入れてきたといえる。そうなると日本の民主主義は戦後の敗北と反省の賜物だけのようにも、みえてくる。日本国民の多くがそんなふうな態度をみせてきたともいえよう。戦前の日本にも自由民主主義に通じる社会の構造や秩序があったことは、その種の「反省」では無視されてしまう。
となると、日本が民主主義の実践の効用を他国に向かって誇らしげに語ることにも、ためらいが出てくるのは自然かもしれない。日本は近年でもとにかく自国が選んだイデオロギーの長所を外部に向かって力強く語ることが少ないのだ。
もっともその背景には自国の主張を諸外国に対して積極的に伝えることは、戦前も戦後もそもそも苦手だった、という日本の国民性にもからむ特徴が働いているのかもしれない。
しかし2023年の世界では自国の信奉するイデオロギーを明確かつ積極的に語ることはこれまでよりもずっと多く各国に求められることは確実である。日本にとってもこの点での寡黙や沈黙の美徳は捨てざるをえないだろう。 (⑦につづく。①、②、③、④、⑤)
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