経済至上主義の崩壊【2023年を占う!】国際情勢 最終回
Japan In-depth / 2022年12月20日 7時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・2023年の世界を占う指針の第7位は経済至上主義の崩壊である。
・ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、経済の結束が政治、外交といった他の分野での平和をもたらすという考えが幻想だったと示された。
・経済至上主義の崩壊は日本にとって最も痛いところを突かれる国際変動かもしれない。
2023年の世界を占う指針の第7の国際変動は経済至上主義の崩壊である。これまで列記してきた新年の新たな国際潮流としては最後の要因とする。
東西冷戦の終了後の世界では多くの諸国が経済の発展を最重視する政策を進めてきた。自国の経済を繁栄させ、他国との経済の絆を強くすれば、非経済の政治、外交、安保などの諸課題も自然とうまくいく、という思考がその基盤にあった。経済を最重視する考え方だから経済至上主義とも呼ばれる傾向だった。
だが近年はこの「至上」が空疎だったことが立証されてしまった。そして新しい年の2023年にもその傾向が続くことを予測したい。
この傾向のわかりやすい実例がウクライナ戦争だった。ロシアのウクライナ侵略が国際関係は経済以外の政治要因によってこそ動かされるという現実をみせつけた。その結果、経済最優先主義の非現実性を証してしまった、といえるのだ。
ロシアはウクライナとは経済の絆があった。貿易も活発だといえた。ロシアはさらにアメリカとも西ヨーロッパ諸国ともエネルギーの需給関係を主体として緊密とさえいえる経済の相互依存があった。
だがその種の経済の共通性はロシアの軍事侵略を防ぐうえで、なんの役にも立たなかった。「経済さえあれば」という思考は政治的な野心や軍事力の行使という非経済の要因により一瞬にして吹き飛んでしまったのだ。
ロシア国内に850もあったアメリカのマクドナルドの店はロシアとアメリカの経済の絆の象徴だった。だがウクライナ戦でそのマクドナルド店は一気に閉鎖へと向かってしまった。やはり人間集団や主権国家にとっては安全保障や統治理念を含む政治が主であり、経済は従ということなのだろう。ロシアとアメリカとの経済相互関係はロシアのウクライナ侵略を防がず、アメリカが西欧諸国とともに一気にロシア敵視へと向かう雪崩のような動きを止めることもなかったのである。
経済での利益や合理性だけを追えば世界はうまくいくという考え方が瓦解したともいえる。その点の鋭い指摘がワシントンの国政の場でも表明された。幅広い国際問題評論で知られるベテラン・コラムニストのファリード・ザカリア氏がロシアのウクライナ侵略から1ヵ月ほどしてワシントン・ポストに寄せた論文だった。
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