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日本人とビール 酒にまつわるエトセトラ その4

Japan In-depth / 2023年1月23日 15時54分

したがってまた、西洋の文物について知る唯一の方法はオランダ語を学ぶことで、漢学、国学に対して蘭学という分野が存在したことは、ご案内の通りである。


この長崎・出島のオランダ商館でビールが醸造されていたことから、通詞(通訳。〈つうじ〉と読む)を務めた日本人が試しに飲んだ記録もある。その感想は、


「まったく口に合わない」


というものであった。1724(享保9)年、八代将軍・徳川吉宗の治世下での話である。ビールに麦酒という漢字を当てたのも彼ら和蘭(オランダ)通詞らしい。


時代が下って1853(嘉永6)年、米国の提督マシュー・ペリーが率いる艦隊が、江戸湾の入り口に当たる浦賀(現・横須賀市浦賀)に来航した時のことだという説である。


世に言う黒船来航で、その目的は、こちらもご案内の通り開港=通商条約の締結を幕府に要求することであった。


その交渉に先立って幕府の役人が、ペリーの座乗する旗艦「サスケハナ」の船上で接待を受け、米国産の酒を振る舞われたが、その中に「土色で無闇に泡立つ」物があったとの口述記録が残されている。これは間違いなくビールだ、とされているのだが、前述のような事情で、そもそもビールの存在を知る日本人がほとんどいなかったことから、今日に至るも推測の域を出ない話でしかない。


土色と聞いて首をかしげた読者もおられようが、これは、日本で市販されているビールの大半がピルスナー・タイプだから、という事情によるものだろう。


ラガー(下面発酵ビールのこと)とも呼ばれるが、現在のチェコ西部ボヘミア地方の街プレゼニが本場であり、プレゼニのドイツ語読みがピルゼンであることから、この呼称が定着した。


これに対して英国などでは、上面発酵のビールが好まれており、エールもしくはビターと呼ばれる。このあたりの事情については、本連載でも『スコッチとビールから学ぶ物』と題して触れたことがあるので、できればご参照いただきたい。


エールは、ピルスナー・タイプが黄金色であるのに対して、茶色っぽく、たしかに土色に見えなくもない。中でもポーターと呼ばれるエールの一種は、安価であることから英米の労働者や兵士に好まれていた。ポーターという呼称自体、港湾で働く荷役労働者(ポーター)が好んだから、というのがもっぱらの説だ。


米国でバドワイザーという銘柄の、ピルスナー・タイプのビールが売り出され、やがて市場を席巻するのは、もう少し先の話となる(1876年に生産開始)。


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