不要な「核の傘」信頼性論議
Japan In-depth / 2023年1月25日 23時0分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は核抑止力について全く触れなかった。
・独自核抑止力の保有と米国との核共有、「核の傘」重視は相互に排除し合うものではない。
・核抑止力を分担するのは同盟国の責務ともいえるだろう。
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(座長・佐々江賢一郎元外務次官)は岸田文雄首相の意向を反映して、核抑止力の問題に全く触れなかった。「総合的」という名に反したと言わざるを得ない。
政府が2022年12月16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」も「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と従来の殻に閉じこもったままである。
日本核武装というと、直ちに「アメリカが許さない」と敗北主義的姿勢を取る人々がいる。
日本政府の「対米従属」姿勢を批判する左翼勢力の中にもそうした主張があるのは奇異な光景である。それこそ「対米従属」であり植民地根性ではないか。
私の経験に照らせば、日本核武装に関してアメリカで最も多い反応は、「日本側の考えや方針はどうなのか、まずそれを聞かせて欲しい」というものである。頭ごなしに「必要ない」と否定したり露骨に妨害したりする向きは、かつてはいざ知らず、今ではさほど多くない。
北朝鮮や中国、さらにはロシアの核の脅威に直面する同盟国日本が本気で核抑止力保有を追求するに至ったと感じ取れば、賛成に傾く米国人は増えるだろう。
独自核抑止力の保有と米国との核共有、「核の傘」重視は相互に排除し合うものではない。すなわち二者択一、三者択一で考える必要はない。重層的に捉え、すべてを備えるのが最善との姿勢で、出来る部分から手を付けていけばよいだろう。現にイギリスはそうしている。日本でおかしいのは、独自核だけを頑なに排除する態度である。
確かにアメリカにも、日本核武装を公然と疑問視する向きはある。
例えば、日本でよく一級の戦略家として扱われるエドワード・ルトワックは次のように述べる。
《中国の脅威をにらんで日本が核保有することの根本的な疑問は、米国が信頼に足る拡大抑止(核の傘)を保障しているのに、日本が自前の核を持つ価値があるかということだ》
米国はウクライナ戦争を通じ、たとえウクライナのように条約同盟国でなく、米国に防衛義務がなくとも、巨額の資金を投じ、多大なリスクを負って支援に回ることを示した。今回の戦争は米国への信頼度を大いに向上させたといえる》(ルトワック「世界を解く」、産経新聞2022年5月20日)
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