劉鶴副首相のダボス会議演説と中国経済
Japan In-depth / 2023年1月28日 19時0分
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・ダボス会議で劉副首相は中国の再開放、経済成長が正常に戻ることを言明。
・共産党による民間企業への過剰干渉=「国進民退」が続く中、中国経済全体の活気が失われる恐れ。
・米中関係の緊張や情報管理の重視、米による経済的デカップリングにより、国有企業が次々と米国市場から撤退している。
今年(2023年)1月17日、中国の劉鶴副首相が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で特別演説を行った(a)。
劉副首相は中国の経済状況、特に不動産部門に関連する
(1)金融リスクの軽減に向けた取り組み
(2)「双循環経済」(国内循環を主体とし、国内と国際の2つの循環が相互に進展)
(3)「共同富裕」の推進
等を紹介した。
劉副首相は演説の中で「中国は再開放された」、「中国は戻ってきた」というシグナルを世界に発信している(b)。また、中国は外資の回帰を歓迎するとし、改革が進み、習主席が進めたイデオロギー重視(「ゼロコロナ政策」)が終わったので、投資家は中国経済を楽観的に見るべきであると主張した。更に、2023年の中国の経済成長は「正常」に戻ると言明した。
だが、昨年、
(1)中国経済の構造的問題(混合所有制等)
(2)人口減少問題
(3)不動産市場の低迷
(4)米国の対中ハイテク分野への圧力
(5)中国共産党の過剰な影響力を懸念する投資家が増加する
等の理由で、同国経済は3%程度という成長にとどまった。そのため、欧米からは一部劉鶴演説に対する厳しい批判が出ている。
さて、今後、中国経済低迷につながるかもしれない具体的な2つの例を挙げたい。
第1に、最近、陝西省委員会組織部は25人の若い幹部を重点「非公有制企業」(=民間企業)に派遣する(c)という。彼らが取締役となって経営陣に合流する。
第2に、中国政府はテクノロジー企業の株式を買い占め、共産党が各社の議決権を獲得し、各社の決定に影響力を行使するという新しい戦略を採用(d)した(北京が「特別管理株式」を購入する)。
以上は、中国共産党が民間企業への干渉を如実に示す。習近平政権は、党が何か何でも私企業をコントロールしたいのだろう。ただし、一般的に、政治が経済へ過剰に干渉すれば、「国進民退」(効率の悪い国有セクターが拡大し、効率の良い民間セクターが縮小)となり、中国経済全体、活気が失われるだろう。
本来、「民進国退」こそ経済発展のカギではないか。だが、北京政府は、社会主義経済への“逆コース”を辿っている。これでは、中国経済の停滞は、火を見るよりも明らかだろう。
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