加賀乙彦氏追悼 東大医学部の劣化を憂う
Japan In-depth / 2023年2月18日 23時26分
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
【まとめ】
・東京大学医学部卒業生から文学者がでている。なぜ、彼らが文学という形で自らの思索を発表しようとしたのか。
・そのような先達の一人に、故加賀乙彦氏(本名小木貞孝)がいる。
・近年、東大医学部から、このような知性は出ていない。同部出身者は急速に劣化していると感じている。
「私が福島のためにできることは少ない。ただ、元気にここで生活していることが復興だと思っています」。
小鷹昌明医師は言う。小鷹医師は、東日本大震災直後に勤務していた獨協医科大学を辞め、南相馬市に入った。現在まで同地で勤務を続けている。
小鷹医師と私の出会いは、埼玉県の行田総合病院で非常勤医としてご一緒したことだ。誠実で、優秀な医師だった。東日本大震災当日も、隣のブースで診療していた。交通機関が止まったあと、車で熊谷駅まで送っていただいた。
小鷹医師は神経内科専門医だ。神経難病に悩む多くの患者さんを診察してきた。様々な理不尽を実感したはずだ。また、大学病院で医局長を務めていた小鷹医師は、医局の不祥事で、管理責任を問われていた。 ネットニュースで事件を知っていた私は、彼を追及するのは理不尽な話と感じていた。将来に悩んでいた小鷹医師を浜通りにご案内した。詳細は省くが、南相馬市に移住した小鷹医師は、診療の傍ら、現地に溶け込もうとした(写真)。様々な苦労を経験したようだ。
震災から12年が経過し、彼の頭の中で考えは熟成した。それが、冒頭の発言に繋がった。小鷹医師には文才があり、獨協医大時代から多くの著作を発表していた。南相馬市移住後も、執筆活動を続けた。今後、福島での思索を小説などの形で発表するはずだ。期待したい。
私が、卒業した東京大学医学部の卒業生からは、複数の文学者がでている。小鷹医師とお付き合いして、私も医師と文学の関係に関心を持つようになった。そして、なぜ、彼らが文学という形で自らの思索を発表しようとしたのか考える様になった。
そのような先達の一人に、1月12日に亡くなった加賀乙彦氏(本名小木貞孝)がいる。享年93才だった。小鷹医師同様、彼の人生も興味深い。
加賀氏は名古屋陸軍幼年学校在学中に終戦を迎え、その後、旧制都立高校理科から東京大学医学部に進み、昭和28年に卒業した医師だ。専門は精神科で、東大病院精神科や東京拘置所などでの勤務経験がある。
加賀氏の代表作は、『永遠の都』と、その続編である『雲の都』だ。日本海海戦に従軍した元海軍軍医で、戦前に東京の三田で医院を開業した祖父に始まる一族の歴史を扱ったものだ。
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