3.11から12年、「風化」を止めるために
Japan In-depth / 2023年3月11日 23時4分
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・若い世代にとって、東日本大震災の記憶は風化している。
・福島第一原発事故直後のニュースなど、20歳以下の世代はよく知らないようだ。
・震災経験者が次世代に語り継いでいくしか、風化は止められない。
あの時、私はフジテレビ本社の18階解説委員室にいた。携帯の緊急地震速報が一斉に鳴った時、私は部屋中に聞こえるくらいの声で、「地震が来るぞ!」と叫んだ。周りに数人の社員がいたが、今でもはっきり覚えている。誰も、危機感がない表情をしていた。「安倍、何言ってんだ?」ぐらいの。
その何秒か後、すさまじい揺れが建物を揺らした。それは生まれてこのかた経験したこともないほどの揺れだった。体が大きく左右に振られる。棚からモニター、本などが一斉に崩れ落ちる。というか飛び出すという表現の方が正確かもしれない。正直、床が抜けると思った。「ああ、ここで死ぬのか」と感じたのは嘘ではない。
妙に冷静だった私は、さっき私の叫びに反応しなかった人たちをふと観察した。顔が引きつっていた。揺れは長く感じた。
11日の今日、テレビは「震災から12年」と銘打って様々な特集を組んで放送していた。毎年恒例ではあるが、12年ともなると風化していることを感じずにはいられない。
最近の学生に震災の話をしたときのことだ。20歳そこそこだと2011年当時は7、8歳だ。小学校2、3年生くらいか。震災のことを余りはっきりとは覚えていないのも無理はない。
一度、こんな話を学生にしたことがある。福島第一原発の事故直後の話だ。
東京から外国人が消えた。在外公館が一斉に大使館員とその家族に退去を命じたのだ。みな帰国したり、海外に一時避難した。東京も放射性物質に汚染されるから非難したほうがいいとの判断だった。当然日本人の中にも東京脱出した人はいた。
ヨウ素を巡る問題もあった。原子力災害で放出される放射性ヨウ素は体内に取り込まれると甲状腺に集積し、放射線の内部被ばくによる甲状腺がんなどを発生する恐れがあるとされている。安定ヨウ素剤の服用目的は、放射性ヨウ素が甲状腺に集積するのを防ぎ、甲状腺への放射線被ばくを低減させることだ。つまり、避難している最中にヨウ素剤を飲めば被ばくの可能性を減らすことが出来たわけだ。
しかし、福島県が原発から10キロ圏の6町などに備蓄していた安定ヨウ素剤は、富岡町など一部の自治体を除き、ほとんど配布されなかった。政府の服用指示が必要だったが、県との情報伝達がうまくいかなかったことが原因とされる。
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