ガーシー除名、高市辞職騒ぎ 国会の狂乱は民主主義衰退の象徴だ
Japan In-depth / 2023年3月16日 23時0分
日華事変勃発から約2年半後の昭和15年2月2日の衆院本会議、斎藤(民政党、兵庫5区)は、米内光政首相の施政方針演説に対する代表質問に立った。
10万人以上の戦死者を出しながら解決できない政府、軍の不手際を斎藤は指弾、いつ解決するのか国民に示せと迫った。
「10万の将兵が戦場に屍を埋め、数十万の将兵はいたましく戦傷に苦しみ、百万の将兵はいまなお戦場で苦難と戦っている」(「官報」昭和15年2月3日、国会図書館デジタルコレクション)と戦局がかならずしも有利ではないことを指摘したが、クライマックスは議事録から削除された部分だ。
「この事変の始末をつけなければならぬところの内閣、出る内閣も、出る内閣も、輔弼の重責を誤って辞職する。内閣は辞職をすれば済むが、事変は解決しない。護国の英霊はよみがえらないのであります」 (「証言・私の昭和史2 東京12チャンネル編 學藝書林)。
理路整然、しかし舌鋒鋭い攻撃だった。
■有権者の心意気、兵庫5区の選挙民
「すばらしい演説でしたね。のちに除名するような態度をとった議員連中も、すっかり魅せられて大拍手でした」。
議場にいた社会大衆党の片山哲議員(戦後、首相)の回想だ(「私の昭和史2」)。
しかし、軍部が「聖戦を侮辱している」と反発したことから一転、その夜のうちに除名問題に発展する。斎藤は懲罰委員会で堂々と弁明の論陣を張ったが、気骨ある10数人の議員を除いて全政党が除名に賛成、翌月、議会を追われた。
本来は結束して同僚議員を擁護すべきだった政党は、こぞって軍に迎合、自らその存在意義を放棄した。
朝日新聞記者として議場で取材していた入江徳郎(戦後「天声人語」担当、ニュースキャスターなどをつとめる)によると、斎藤は、演説の当夜、自邸で「次の選挙でまた僕は出てくるさ」といっていたが、寂しさはを隠し切れなかったという(同)。
斎藤は言葉通り、昭和17年に行われた翼賛選挙では非推薦にもかかわらず兵庫5区で見事トップ当選、返り咲きを果たした。
入江は「有権者は立派だった」(同)とたたえるが、憲兵の監視が厳しいなか、反軍演説を行った政治家を支持する多くの選挙民が票を投じたことは、民主主義ではない時代における、ささやかな民主主義の実践と映る。
■醜態ぶり、目を覆うばかりの今国会
今国会では、ガーシー議員の除名騒ぎだけでなく、閣僚と野党議員との議員辞職問答など同様の醜態がみられる。
放送法の中立性に関する総務省の内部文書をめぐって、信ぴょう性を否定する高市早苗経済安全保障担当相(文書作成時の総務相)に野党議員が、ホンモノの文書だった場合、議員辞職するかと迫り、高市氏も「結構だ」と応じた。
事実解明がなされる前に辞職を求める方も求める方だが、いとも簡単に応じる方も応じる方だ。主権者たる有権者の存在を忘れ、議員の地位を権力闘争の具として、与野党だけで「辞める」「辞めない」などと議論することなど許されることではない。
太平の世とはいえ、国会の狂乱ぶりには目を覆うばかりだ。
平和と自由の恩恵を享受する今の時代の国会に比べ、戦時下で暗黒時代のそれが、よりまっとうで活力に満ちていたとは。
日本の民主主義は明らかに劣化してしまったというべきだろう。
トップ写真:衆議院(本会議場、1937年9月1日)出典:Bettmann / GettyImages
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