週刊誌記者が見た、東大を訴えた青年の素顔
Japan In-depth / 2023年4月7日 23時0分
世間から受けている誤解を払拭する意味も込め、杉浦さんの今の思いを世に伝えたいと願う一方、普段書いている媒体で記事を出せるかどうか、案ずる気持ちもありました。週刊誌では、編集部に属する記者たちや外部ライター達が毎週4~5本ほどの企画を持ち寄り、企画会議でそれらをふるいにかけます。それを毎週繰り返していると、どのような記事が通りやすく、どのような企画が落ちやすいか、おおよその察しがつけられるようになってきます。
特に「同じ会社内で誰かが既に記事にしている」「初発の報道が出てから時間が経っている」企画は落とされる傾向が強く、今回は両者の条件を満たしていることが心がかりでした。
そんな時、改めて思い返したのが、以前勤めていた週刊誌で上司から口酸っぱく言われていた言葉です。週刊誌では、数日から1週間という短い期間の中で、アポ取り~取材~記事化~校了までを手際良くこなしていくことが求められます。仮に取材を申し込んでも、必ずOKがもらえるとは限ませんが、かといって手ぶらで帰ることもできません。「何か行動を起こす時には、ダメだった場合のことを常に考えろ」と叩き込まれていました。
そのため、今回も企画が落とされる可能性を視野に入れながら、次の持ち込み先はここ、それでもダメならこの人に相談しよう……とあらかじめプランを立てておきました。
最初に提案を行った編集部では、先に挙げた二点の理由から、結局企画は通過しませんでした。しかし、それも想定していたこと。不通過を知った数分後には『週刊金曜日』編集部に電話を入れ、翌週、無事に採用が決まりました。
記事にできると決まった後は「どこに焦点を当てて伝えたいか」を改めて考えました。
当初から意識していたのは「記者会見だけでは見えてこない杉浦さんの素顔を伝えたい」ということです。
今回の裁判について、既報記事の多くは、杉浦さんの記者会見の発言がベースになっていました。
会見や発表にもとづく記事を否定はしませんが、公的な場で人は往々にして「おすまし」をするものです。また、会見の情報に頼ると、結果的に記事の内容が他メディアと似たり寄ったりになってしまうこともあります。実際、会見で自分が投げかけた質問に対し杉浦さんが答えた「抗議したら制裁受けるのはおかしい」という一言を、あるWebメディアがそのまま記事の見出しに使っていたことには驚きました。ジャーナリストであれば、ぜひ自分が持っている問題意識を取材対象にぶつけて、答えを引き出す心意気で会見に挑んでほしいと思います。
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