欧州、エネルギー危機を回避
Japan In-depth / 2023年4月17日 23時0分
村上直久(時事総研客員研究員、学術博士/東京外国語大学)
「村上直久のEUフォーカス」
【まとめ】
・ウクライナ戦争により欧州ではエネルギー価格が上昇したが、供給停止など最悪の事態には至らなかった
・さらにウクライナ戦争は欧州におけるエネルギーの脱炭素化を進めるきっかけとなった
・ロシアの対欧州エネルギー禁輸による脅迫は失敗に終わったと言える
ロシアのウクライナ侵攻を背景に欧米が打ち出した対ロ制裁への報復としてロシアが欧州への天然ガスや原油の禁輸に踏み切ったことで、欧州では昨年、冬の到来を前に供給不足などエネルギー危機が懸念されていた。しかし、欧州市民がエネルギー消費の節約に努め、加えて比較的穏やかな冬だったこともあり、エネルギー危機は回避された格好となった。ロシアは対欧州エネルギー禁輸で、欧州によるウクライナ支援の機運に冷水を浴びせかけようとしたが、空振りに終わったようだ。
◇価格は高騰
エネルギー危機はもし起きていれば、まさに戦時体制を連想させるものだったが、欧州市民はロシアのプーチン大統領に立ち向かう姿勢を示すために室内の暖房温度を下げるなどの犠牲をいとわず厳しい冬を耐え忍んだ。産業部門も再生可能エネルギーによる代替を積極的に行った。
エネルギー供給が途絶えることはなかったが、それでも価格は高騰。電気・ガス料金は最大15倍跳ね上がった。こうした中で各国政府は積極的に消費者支援に乗り出した。ドイツ、デンマーク、イタリアなどはそれぞれの国内総生産(GDP)の5%以上を補助金として支出した。
欧州では停電は起きず、寒さによる市民の死亡率が大幅に上昇することもなく、最悪の事態は避けられた。
エネルギー価格の急上昇はインフレ要因となり欧州各国では消費者物価上昇率が軒並み10%前後に達し、景気後退(リセッション)をもたらすのではないかと多くのエコノミストは6カ月前には予測していた。
しかし、そうはならなかった。天然ガスは米国や中東・北アフリカなど代替供給先での調達が進み、在庫水準は上昇。価格もウクライナ戦争勃発前の2021年9月の水準まで下がった。
今では大方のエコノミストは、欧州経済がリセッションではなく、成長に向かうと予測している。
◇GXの進展
そして最も注目すべき点は、ほとんどの欧州大陸諸国が加盟する欧州連合(EU)が最悪の事態を回避できただけでなく、「環境にやさしい経済への転換(グリーン・トランスフォーメーション=GX)に拍車をかけたことだ。英経済誌エコノミストは最近、欧州は2050年までを目標とする脱炭素化のタイムテーブルを事実上、10年早めたと指摘している。
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