ザンビア大付属病院、血液内科での研修記録
Japan In-depth / 2023年4月23日 7時0分
2019年からNHIMAと呼ばれる国民皆保険制度が始まり、毎月の掛け金(正規雇用者は給料の1%、非正規雇用者は30K-60K)を支払うことでこれらの医療費が無料になるが私が担当した4人の患者の内、加入者は1人のみだった。
医師たちの非常に重要なルーティンは朝、夕の回診だ。話を聞くだけではなく、徹底的な身体診察、繰り返しの病歴聴取を行う。貧血の患者であれば、眼瞼結膜、聴診、匙状爪の程度、貧血による心不全徴候が表れていないか等、系統的にスクリーニングを行う。紙のカルテに毎日書き込み、身体所見から治療効果を評価していく。コストのかかる検査を行う場合は、患者やその家族にその必要性を丁寧に伝えなければならない。患者側もなるべくコストは抑えたいため、本当に必要な検査なのか必死に質問する。
中国の江蘇大学医学部を卒業し現在研修医1年目のMvula医師は言う。「金銭的な限界があり、自分が学んだ専門的な知識のすべてが必ずしも臨床で生かせないのはとてももどかしい。でも患者さんのお金を使って検査や治療をしているため、その分とても責任感がありやりがいを感じる」。
慢性骨髄性白血病の確定診断には染色体異常や遺伝子検査が必須だがこれは保険にカバーされておらず、ザンビア国内で検査できる機関はない。仮に染色体変異を確かめるFISH検査をする場合は検体をインドに送る必要があり、3,000K-4,000Kほどかかるようだ。仮にこの検査で確定診断できたとしても先進国では標準治療であるチロシンキナーゼ阻害薬といった分子標的薬は国内で入手できず、同じくインドから購入する必要がある。これらを考慮し、臨床経過や各種採血結果、末梢血や骨髄中の標本像から慢性骨髄性白血病を疑い、診断的治療を含めてヒドロキシユリアと呼ばれる骨髄を抑制する薬を投薬していた。
Mvula医師は患者だけでなく、その家族もよく観察し、非常に献身的だ。めまいを自覚し近医を受診。貧血の程度を示すヘモグロビンの値が3.0と著名に低下していたため精査治療目的にザンビア大学医学部付属病院に転院になった患者がいた。89歳と高齢の女性だ。NHIMA(前述の国民皆保険制度)に入っていれば65歳以上は保険加入料も含めて医療費は全て無料だ。しかしながら彼女が所有するNRC(国民登録カード)に不具合があり保険に加入できない。輸血やそれに必要な血液型の検査は生き死にに直ちに直結するため、Mvula医師自ら検査室や輸血室を訪れ、「Emergency」と訴え、金銭支払いの交渉をせずに輸血をしていた。
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