「セメント王」浅野総一郎② 埋め立て計画に抵抗勢力が勢いづく
Japan In-depth / 2023年5月3日 23時0分
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・総一郎は明治32年4月、東京府知事あてに東京築港と品川湾埋め立て届出を出したが却下。
・明治42年に再び、東京港築港計画をぶち上げたが、議会が反対。
・その後、150万坪を工業用地として埋め立てる計画を神奈川県庁に届け出た。
浅野総一郎はこうした体験で、大きな船が横付けできる港、それに隣接する埋め立て地が必要だと感じた。
「いや、去年の7月の出航の時に、大変立派な建物だと思って眺めていた横浜の税関の荷物検査所は、今回帰国してみると、きたない煉瓦造りの馬小屋にみえる。官尊民卑の日本では官僚は気位ばかり高いが、建物一つとっても、イギリスやアメリカに及ばない。日本は民間の会社がもっと成長しなければならないよ」。
そしていよいよ具体的な行動を起こす。最初は欧米視察から帰国後2年たった明治32年4月、東京府知事あてに東京築港と品川湾埋め立て届出を出した。その規模は21万坪。当時の民間による埋め立て工事はせいぜいで3万坪で、関係者が驚嘆する規模の計画だった。あっさり却下されたが、総一郎は「品川での埋め立て計画は失敗したが、必ずやり遂げる」と心に決めた。
明治42年に再び、東京港築港計画をぶち上げた。それは壮大なプランだった。羽田沖から、芝浦まで、幅300メートル、水深10メートルの運河を掘り、1万トンクラスの船舶が直接入れるようにする。掘削で発生する土砂を利用して、運河の沿岸を埋め立て、600万坪の工業団地を造成するものだ。ほかの実業家らと共同で事業計画を作成し、東京府に提出した。3700万円の資金調達の目途もついた。
府知事や市長は賛同したものの、市議会では「港を作るのは、国家的事業。民間の有志にまかせてはいけない。政府や東京市が行うべきだ」と反対した。さらにお隣の神奈川県からは「東京湾の築港は、横浜港の生命線を脅かす」という意見が飛び出した。横浜港の地位を脅かす可能性があると懸念されたのだ。
総一郎は不満を抱いていた。そもそも、行政による東京港の修築は20年以上にわたり放置されてきた問題だ。政争や財政難を理由に一向に進まなかった。それで、業を煮やした総一郎が計画を打ち上げたのに、市議会は「民間に任せてはいけない」という杓子定規な構えだ。総一郎はビジネスマンとして「築港しなければ、国家は巨額の経済的な損失が生まれ、他の国に負ける」と切羽詰った主張を展開したが、市議会は全く、聞く耳を持たず、握りつぶした。
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