ロシアの偽善的国連外交
Japan In-depth / 2023年5月5日 23時0分
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・ロシアは、安保理でウクライナへの「特別軍事作戦」を正当化。
・別の会合で西側諸国によるウクライナへの武器供給を暗に批判。
・ウクライナは被害者であり、西側武器支援は正当防衛であることを無視するロシアの偽善外交の一旦。
ロシアは、4月、安全保障理事会(安保理)議長を務めたが、議題設定が出来る立場を利用して安保理を自国のプロパガンダの場として利用した。
4月24日、ロシアは、「国連憲章の原則擁護を通しての効果的多国間主義(マルチラテラリズム)」と題した公開会合を開催した。ハイレベル会合を招集し、ラブロフ外相が議長としての演説を行った。ハイレベル会合は、通常外相レベルだが、実際に安保理の理事国で外相を派遣したのは、アラブ首長連合(UAE)とアフリカのガボンとガーナだけだった。米国や日本など他の理事国は、国連大使レベルに格下げしてロシアの政治的意図に対抗した。
ラブロフ外相は、演説の中で、米国を中心とした西側諸国の「法の支配」概念は自らの利益追求のためのものであり、グローバリゼーションを通じた利益を損ない、国連憲章の主権平等を侵害するものだとして批判した。
そして、米国のユーゴスラビアやイラク、リビアに対する武力攻撃やNATOのウクライナへの拡大意図などを挙げて、自らのウクライナへの「特別軍事作戦」を正当化した。日本は学校で誰が原爆を日本に落としたか教育しておらず、米国もそれを表だって認めていない、と自らの核使用の可能性を正当化している。ウクライナの政権はナチだとの主張を繰り返した。
外相演説に先立ってグテーレス国連事務総長が演説し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は国連憲章と国際法の違反であり、ウクライナの人々に甚大な影響を与えているばかりでなく、コロナ感染病パンデミックで打撃を受けたグローバル経済の後退にさらに後うちをかけたとして、自らの見解を説明した。
また、事務総長は、昨年7月に合意された「黒海穀物イニシャチブ」の継続を訴えた。このイニシャチブは、安保理によって数回更新されており、現在の合意は5月18日に更新時期を迎える。これに対して、ロシアには国連やトルコと結んだ協定によって自国の穀物や肥料が思ほど輸出出来ていないことに対する不満があり、更新に際して度々拒否権の行使を匂わせている。その原因には、西側諸国のロシアに対する金融制裁があり、食料や肥料はその対象外だとしても、銀行決済が容易に出来ていないことにロシアが苛立っていることがある。
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