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姜慶五教授から学んだこと

Japan In-depth / 2023年5月26日 8時14分


↑写真4(温州医科大学第二病院でのミーティングの風景 左から二人目の女性が王娜医師。右から坪倉正治・福島医科大学教授、筆者、姜教授)


筆者提供)


王娜書記は「中国国内での、この病院の格を上げるためには、診療と並び、研究実績を上げなければならない。是非、協力してほしい」と言う趣旨の発言を繰り返した。


人口910万人、日本で言えば神奈川県や大阪府と同レベルだ。その基幹病院である温州大学病院には、十分な症例数とデータがある。ところが、分析できる専門家がいない。研究につきものの国際交流も少ない。


筆者が「病院で海外からの留学生はどれくらい受け入れているのか」と訪ねると、「一人もいない」と回答した。つまり、組織としてのノウハウの蓄積が不十分なのだ。まさに、姜先生のような人材との共同研究が望まれる。


私が不思議に思ったのは、中国を代表する公衆衛生の専門家とどうやって関係を構築したかだ。温州医科大学のスタッフは、さまざまな試行錯誤をしたそうだ。「共同研究のことで色々と売り込みがありましたが、信頼できる方はいなかったです。それは金目当ての方が多かったからです」と説明してくれた。いきなり100万人民元、日本円にして約2000万円の費用を請求した研究者もいたらしい。私の経験でもそうだが、まず金を要求する医師や研究者は信頼できない。


その後、ある会合で別の温州医科大学関係者が姜教授と知り合い、共同研究を提案したところ、「データや資料の処理は協力しますので、その権限をください。お金は一切要りませんから、一緒に発表しましょう」と言われたそうだ。そして、足繁く、温州医科大学まで足を運んでくれたらしい。日本の状況に直せば、東京大学や京都大学の有名教授が、一緒に研究できるなら、報酬はもちろん、共同研究費も要らないからと言って、地方大学に足繁く通ってくれるのと同じだ。普通ではあり得ない。


私は、このやりとりこそ、姜教授が私に見せたかったものだと感じた。公衆衛生は何のためにあるのか。それは住民のためだ。問題は上海より地方都市にある。そのような問題を解決したければ、現地を訪問し、その場で活動する専門家と共同作業をしなければならない。これが姜教授の基本的な考え方だ。今回の温州訪問を経験し、彼が福島訪問を続ける理由を再認識した。


今回の訪問は、我々にとってもありがたかった。それは、公衆衛生専門家にとり、温州医科大学は宝の山だからだ。姜教授が現地スタッフと信頼関係を構築しており、若手にとっては実績を上げやすい環境が整備されている。これは中国の若手に限った話ではない。日本人の医師・公衆衛生専門家にも通じる。私が、王娜医師に対して「日本人の若手医師が来たら、診療と研究はできるか」と訊ねたところ、即座に「もちろん、可能です」と返事があった。


帰国後、私は福島で働く若手の医療従事者に「上海、温州に留学して、診療・研究をしてみたい人はいないか」と問うてみた。何名かからは、「是非」と回答があった。姜教授を中心とした復旦大学チームの尽力により、東日本大震災をきっかけに始まった福島と中国の草の根の交流が、着実に深まっている。


トップ写真:(南相馬市の津波被災地にて。右から姜教授、筆者 )筆者提供


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