メキシコとペルーの“バトル”エスカレート「今や断交寸前」
Japan In-depth / 2023年6月13日 18時0分
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・メキシコのオブラドール大統領が昨年のペルー政変に口を挟み、両国間の非難合戦激化。
・メキシコが後任の大統領を認めないとしているのに対し、ペルーは「内政干渉」と猛反発。
・両国の関係悪化は「太平洋同盟」の基盤を揺るがす恐れ。
■メキシコ大統領の“口出し”が発端
メキシコとペルーの対立先鋭化の発端になったのは、昨年暮れのペルー政変にメキシコのロペス・オブラドール大統領が“口出し”したこと。
ペルーでは同年12月、急進左派のカスティジョ大統領(当時)が自身への不正追及の動きに先手を打とうと議会解散を宣言したところ、逆に議会から弾劾・解任され、身柄を拘束される異例の事態となった。これを受け当時、副大統領だったボルアルテ氏がペルー史上初の女性大統領に昇格したが、ロペス・オブラドール大統領は「民主的に大統領に選出されたカスティジョ氏が不当に追放された」と非難し、ボルアルテ氏の新大統領就任を承認しないと表明した。メキシコ政府がカスティジョ氏の家族の亡命受け入れを発表するや、ペルー政府はリマ駐在のメキシコ大使を追放、今年2月にはメキシコシティ駐在のペルー大使を本国に召還した。その後もロペス・オブラドール大統領がカスティジョ氏の釈放と復職、ボルアルテ新大統領の辞任などを声高に叫ぶ中、ペルー外務省はメキシコが内政不干渉の原則を踏みにじったとの非難声明を発表。5月にはペルー議会がロペ・スオブラドール大統領を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定する決議を採択した。
写真)選挙本部で支持者に手を振るペルーの新大統領に確定したペドロ・カスティジョ大統領と副大統領候補のディナ・ボルアルテ(2021年7月19日 ペルー・リマ)
出典)Ricardo Moreira / Getty Images
■「中南米の左翼化潮流守りたい」-メキシコ大統領
当初、ロペス・オブラドール大統領はペルーとの外交関係停止の意向を示したものの、断交はしないと述べていた。ところが最近になって「権力を収奪したボルアルテという女性がペルー大統領の座に居座る限り、ペルーとの経済・貿易関係を望まない」と一層、態度を硬化させている。リマでは「メキシコとの関係は過去最悪で、今や断交寸前の状態」(ペルーの有力テレビ)との声が広がる。なぜ、ロペス・オブラドール大統領はこれほどペルー内政に執着し、カスティジョ氏を擁護するのか。両者がともに左派のポピュリスト的政治家で思想や心情的に共通点があり、個人的にも親密な関係にあるとの見方が一般的だ。メキシコがカステイジョ氏の妻子の亡命を受け入れたのもこうした両指導者の結び付きによることは疑いない。ペルー・カトリカ大の政治学者によれば、ロペス・オブラドール氏は昨今の中南米左翼化の流れをつくったのは自分であるとの自負があり、その流れを守りたいとの強い気持ちを抱いていることがカステイジョ氏復権を主張する大きな動機だという。事実、2018年にメキシコでロペス・オブラドール政権が発足したのを契機に19年にアルゼンチンでフェルナンデス政権、20年にボリビアでアルセ政権、21年にペルーでカスティジョ政権、22年にホンジュラスでカストロ政権、同3月にチリでボリッチ政権、さらに今年1月、ブラジルでルラ政権と相次いで左派政権が誕生している。
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