「セメント王」浅野総一郎物語⑤ 渋沢栄一との出会いは
Japan In-depth / 2023年7月20日 11時42分
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・浅野総一郎、最大の支援者は「日本の資本主義の父」渋沢栄一。
・自分と会うより仕事が大事という浅野に渋沢は興味を持った。
・渋沢は浅野に「上に立っても、自ら行動することが大事」と話した。
富山県氷見市出身の浅野総一郎は、日本の近代化の礎を築いた人物です。セメントを始め、石炭、海運、造船など幅広く手掛け、一代で「浅野財閥」を築きました。
奔放で、突進する男、浅野総一郎。エネルギッシュに仕事しますが、歴史上の重要な人物が浅野の後ろ盾になりました。
最大の支援者は、渋沢栄一でした。「日本の資本主義の父」とも言われた渋沢は、浅野に対して、日本が近代国家に向かう際のエンジン役として期待をかけました。総一郎の道を次々切り開いてくれました。その「友情」は生涯、続きました。
2人はいつ、どのように知り合ったのか。明治9年春でした。浅野は29歳、渋沢は37歳でした。
当時、浅野は大塚屋という石炭商でした。富山県氷見市出身ですが、夜逃げで上京したため、偽名で生活していました。一方、渋沢は王子製紙を経営していました。浅野は、王子製紙に石炭を納入していたのです。
王子製紙は東京の王子村にあり、荒川に面していました。石炭を積んだ船は、荒川を航行し、製紙会社の近くの船着き場に到着。
「船が着いたぞ」。そんな声がすると、半裸の作業員は次々に船に乗りこみます。石炭が入った袋を肩に担ぎ、荷揚げします。荒々しい風景の中、ひときわ大きな声で、真っ黒になって汗を流す男がいました。大声で指示を出しているので、リーダーらしい。誰よりも動きは機敏で目立っていた。太い眉が印象的です。
その姿を事務所の窓越しに見ていたのは、渋沢栄一です。ある日、部下に「首に手拭いを蒔き、シャツ一枚で荷を運んでいる男は誰だ」と聞きました。
「大塚屋です」。「店主自ら、汗を流しているようだな。大塚屋に会ってゆっくり話をしたい」。渋沢はつぶやいた。
その部下は船着き場にまで下り、渋沢の意向を総一郎に伝えました。
「大塚屋さん。渋沢がお話したいと言っています」思いもよらない返事が返ってきた。
「私は昼間、一分一秒も惜しんで働いています。暇な時間は全くありません。昼に会うのは勘弁してほしいのです」。
「あの、渋沢栄一ですよ。あなた知らないのですか」
「知っていますよ。渋沢さんでしょう。王子製紙の社長さんらしいが、どんな偉い人でも、私にとっては仕事が第一です。こっちは忙しいのです。邪魔、邪魔。空いているのは夜だけです」。総一郎は終始、ぶっきらぼうでした。
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