「セメント王」浅野総一郎物語⑭ 高岡・伏木港で日本郵船と対決
Japan In-depth / 2023年8月4日 18時0分
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・浅野総一郎、故郷富山の伏木港との交易を手がける。
・中古船利用で運賃を安くし、日本郵船に打撃を与えた。
・高岡と伏木の業者に感謝され、総一郎は故郷への恩返しができた。
今回は、浅野総一郎と、高岡市の伏木港との接点をお伝えします。伏木港と言えば、江戸時代から日本海で有数の港です。北前船の寄港地でした。また、多くの船を自ら持っている、有力な船問屋が多くあります。
一方、屯田兵の輸送の仕事を引き受けた浅野回漕店。その後、仕事が次々に舞い込みました。総一郎は事業拡大のため、数隻の船を買い入れたのです。運賃の安さとサービスの良さをモットーにしました。この動きに日本郵船はますます警戒感を示しました。
総一郎がまず手掛けたのは、故郷富山の伏木港との交易でした。伏木港は、夜逃げした故郷氷見の近くの港。恩返ししたという気持ちがありました。
伏木港では、明治7年からは岩崎弥太郎の三菱商会の定期航路も寄港しています。浅野回漕店が参入するとすれば、三菱商会の流れを汲む日本郵船にとっては打撃となります。
総一郎は店員らを前に説明しました。
「伏木との交易は、富山の人と横浜の人の利益にかなっている。富山は米どころ。収穫された米を東京や横浜に運べば、関東の人がおいしい米を食べられる。また、富山の農家も、納入先が増えれば、コメ作りに精を出す。一挙両得だ」。
浅野回漕店は明治20年夏、伏木で米を積むため船を出しました。日本郵船との戦いの火ぶたが切られたのです。
関係者が驚倒したのは、料金設定だ。これまでは、日本郵船は100石当たり130円で運送。それに対し、浅野が提示したのは、その半分以下の100石当たり60円です。ダンピングしたわけでありません。総一郎なりの理屈がありました。日本郵船は新しく造った船が主体だが、浅野回漕店は中古の船ばかり。これだけの値段でも十分に元が取れるというのです。
日本郵船は即座に反応しました。伏木の業者に対し、新たな料金を提示したのです。「浅野回漕店が60円なら、40円でも30円でもいい」。
それが逆効果になりました。伏木の海運業者は呆れ、日本郵船に嫌味を言ったのです。屯田兵の輸送と同じような反応になったのです。
「そんなに安くできるのなら、これまでは一体何だったのですか。我々は130円支払っていたんですよ。『江戸は生き馬の目を抜く』とは聞いていましたが、江戸の海運会社は人を食うのですね」。
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