比中で非難の応酬激化 南シナ海 比座礁船の撤去約束巡り対立
Japan In-depth / 2023年8月16日 11時0分
さらにマルコス大統領も9日に「フィリピンが自国の領土であるアユンギン礁から自国艦船シエラ・マドレ号を撤去するとの合意は承知していない。たとえそのような合意があったとしても直ちに破棄する」と約束の存在を全面否定して中国に反論している。
こうした全く反する比中両国による見解からフィリピンにおける対中感情は一気に悪化しており、スビリ下院議長が中国の一方的な主張に抗議するためとして「中国製品のボイコット」を提唱するなどの異例の事態になっている。
★外交機密文書で約束存在との主張
こうした中地元紙「マニラタイムズ」は14日、アロヨ元大統領の政権で大統領報道官などを務めたジャーナリストのリゴバルト・ティグラオ氏がアユンギン礁の座礁船を撤去するという約束は「存在する」と主張しているとの記事を掲載し波紋が広がっている。
ティグラオ氏は「根拠」として2013年4月23日付けの比外務省の覚書などの機密文書の存在を指摘した。いずれも「約束は口頭だったが複数の政府文書で言及されている」としている。
比中外交当局者の複数の会談で中国側が「シエラ・マドレ号の座礁は事故であり、比側は直ちに撤去すると約束した」との発言があり、これに対し比側は「約束が真実かには触れず、中国の要求を黙殺する立場を伝える」こととしたという。その後も中国側から「座礁船撤去が何度も要求された」ことが報告されていることが文書で明らかだ、とティグラオ氏は主張している。
「こうした文書で約束の存在が否定されていない。約束が嘘なら比政府はそれを否定すればいいのに、そうした文言がない」ことを根拠に「約束の存在を裏付けている」としている。
しかしこの論法は積極的な約束の存在を証明するものとは必ずしも言えないとしてマルコス大統領ら政府側の「約束は存在しない」との主張を直ちに覆すことにはならない、との見方が有力だ。
このように「シエラ・マドレ号」の撤去を巡る比中の相互非難の応酬は様々な見方、意見、主張が入り混じり混沌としているのが現状で、こうしたフィリピン側の動きが中国を利しているのではないかとの警戒感も生まれ、政府に断固とした姿勢を取るよう求める声が大きくなっている。
比沿岸警備隊は海軍の協力を得て近くアユンギン礁に再度補給活動を試みる予定としている。これに対して南沙諸島周辺海域には約400隻ともいわれる中国の民兵が乗り込んだ民兵船が展開しているのとの情報もあり、アユンギン礁周辺海域での緊張が高まっている。
トップ写真:マニラの中国大使館前で抗議活動を行うフィリピン人。南沙諸島で中国沿岸警備隊の船がアユンギン浅瀬の前哨基地への補給任務中のフィリピン沿岸警備隊の船を妨害し、放水砲を発射した事件を受けて緊張が高まった。(2023年8月11日、フィリピンのマニラ)出典:Photo by Jes Aznar/Getty Images
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