テレビ記者のスマホ現場報道
Japan In-depth / 2023年9月7日 12時36分
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本のテレビ報道では、記者が準備した文章を読むという感じが目立つ。
・NHKの記者が右手にスマホを持ち、画面を見て読み上げているニュースを見た。
・カメラの前で自分の言葉での現場報告はできなければならない能力の最低水準では。
岸田文雄首相が公開の場で語るとき、自分自身の言葉ではなく、必ず誰かが準備した文書を読む習癖があることをこのサイトでもすでに指摘した。(「岸田棒読み内閣に物申す」2022年3月6日)
政治家でも一般の国民でも他者に向かってメッセージを伝えるとき、「話す」ことと「読む」ことの二つのコミュニケーションの方法があることは自明である。
だが人間と人間との通常の意思疎通では「話す」ことが自然だといえよう。たとえば旧知の友人同士が久しぶりに顔を合わせた際のコミュニケーションといえば、「久しぶり」でも、「元気か」でも人間の頭脳で形成され、口から発せられる話し言葉になることは自明である。その場合に簡単な挨拶にせよ、紙に書いた文字を読み上げる、というのはきわめて不自然である。
ただし総理大臣は普通の一般国民ではない。その言葉はたとえ短くでも、政府代表としての重みを持つ。だからその発言に慎重にならねばならない。だが、かといって首相の言葉はすべて事前に書かれた文章を読みあげる、となると、あまりに不自然となる。首相自身が考え、感じ、述べている言葉なのかどうかが怪しくなる。
この点、故安倍晋三首相は国会でも、記者会見でも、自分の言葉で話すことがほとんどだった。いまの国会でもたとえば自民党の参議院の小野田紀美議員など公式の発言でも答弁でも台本を見ずに、自分の言葉で語り続けるのが印象的だ。
そんなことを感じながら最近の日本のテレビ報道をみていると、ここでも記者たちが準備した文章を読むという感じが目立つようになった。具体的にはカメラに向かって自分の言葉でニュースを伝えるはずの記者が実はさりげなく持ったスマホの記述を台本として読むという姿が多くなったのだ。
アメリカのテレビ報道では記者たちはなにを伝えるにもカメラの先にいる視聴者をみすえて、自分の言葉で語る。つまり「読む」のではなく「話す」のだ。その基準からすると、日本のテレビ報道はだいぶ異なる。
日本ではNHKでも、民放でも、いわゆる記者の現場報告でも、最近はスマホをさりげなく見ながら、というより正確には読みながらの報道が多くなった。記者が台風や火事の現場に行き、なまなましい現状を自分の耳目で目撃して、その印象を自分の言葉で伝える。視聴者はこんな現場報告を期待するだろう。
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