テレビ記者のスマホ現場報道
Japan In-depth / 2023年9月7日 12時36分
ところがその現場の記者の多くが現場をじっくりみすえて、その状況を人間らしい言葉で伝えるのではなく、さりげなく片手に握ったスマホの記述を読む、という事例が多くなったのだ。しかもテレビ局の側のカメラはその記者の握ったスマホをなるべき隠すように画像を映しているのである。
そんなスマホ依存報道のおもしろい実例があったので紹介しよう。
この9月6日午前7時からのNHKニュースだった。「北海道胆振東部地震から5年 心のケアや森林再生など課題も」というタイトルだった。ちなみにNHKはこういう「あれから何年」という記念物が大好きである。いまとくに新たな出来事が起きていなくても、5年前、10年前のその日に起きた昔の出来事について改めて詳しい報道をする回顧物である。
さてこの北海道の地震の5年記念特集はこんなアナウンサーの語りで始まった。
「44人が犠牲になった北海道胆振東部地震から6日で5年になります。被災地では主要なインフラ整備はほぼ完了するなど、復旧から復興へと向かっていますが、被災者の心のケアや大きな被害を受けた森林の再生など、課題も残されています」
そして北海道駐在の若手にみえる男性記者が出てきて、被災地に立ち、かつての被災者やその遺族などにインタビューしていた。ときおりカメラに向かって立ち、解説を加える。左手にマイクを持ち、報告を語る。ところがカメラはこの記者の右手をほとんど映さない。あえて避けているようにみえる。しかし視聴者側からすると、この記者が右手にスマホを握っているらしい姿勢が明白だった。
そしてしばらく記者は総括の感想などを述べるうち、その語りが詰まるようになった。すると、彼は右手も持ち上げ、そこに握られたスマホの画面を見て、読みあげ始めた。明らかにそこに書かれた報告を自分の言葉で発せられなくなって、カンニングのようにその台本を読んだのだった。
しかもこの記者はわずか2分ほどの総括レポートのなかで、2回もスマホを堂々と自分の眼前に持ち上げ、カメラから目をそらして、スマホの画面を読んだのだった。最初からスマホをみせないように撮影してきた放送側も、記者自身も、その努力が水泡に帰したという感じだった。
しかし放送記者たる職業人として、カメラの前での自分の言葉の現場報告というのは当然、できなければならない能力の最低水準なのではないのか。現場でスマホ画面を読まなくても報道ができる記者を養成や訓練はしないのだろうか。簡単な話、火事の現場で火事を見て報告をせず、片手に持ったスマホだけを見ての報道というのは視聴者の愚弄につながらないだろうか。
このあたりをテレビ報道の記者やデスクなどはどう考えているのだろう。ぜひ見解を聞きたいところである。
トップ写真:テレビのリポーター(イメージ ※本文とは関係ありません)出典:mixetto/GettyImages
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