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「野球中華思想」を排す(下) スポーツ2023 その3

Japan In-depth / 2023年9月29日 11時0分

 


 そのクリケットを「女子供向けに改良した」ラウンダーズというスポーツがあり、これはソフトボールとよく似ているのだが、ここから野球が派生したと考えられている。


 


 したがってイギリス人に言わせると、野球などというものは


「クリケットまがいのスポーツの、そのまた亜流」


 とでもいうことになるらしい。実際、かの国の民放が深夜枠で大リーグ中継を放送したことがあるが、視聴率はまるで上がらず、すぐ打ち切りになってしまった。


 野球のリーグもあるにはあるが、当然ながらアマチュアで規模も小さい。


 米国で野球が盛んになったのは、まあ理由は単一ではないと思われるが、前述のような事情から、クリケットやラウンダーズに比べて、よりエキサイティングなゲーム展開だからということも、ひとつ考えられる。


 どこの国とまでは言わないが、これだからアメリカンは……といった声が聞こえてくるような気もするが、その話はさておき笑。


 サッカーにせよ、実はこの呼称が定着しているのは米国と日本くらいなもので、世界的にはフットボールと呼ぶのが一般的だ。米国ではフットボールと言えば、防具を着けて行うアメリカン・フットボールを指すので、区別のためにサッカーという呼称が用いられている。


 過去100年間の、日本と米国との特別な関係性から、日本でもサッカーという呼称が定着したのだ。明治時代に英国から伝わった当初は、アソシエーション・フットボールを略して「ア式蹴球」などと呼ばれていた。


 野球はどうなのかと言うと、ベースボールをこのように訳したのは正岡子規だと広く信じられていた。本当は(旧制)一高ベースボール部にいた中馬庚(ちゅうまん・かのえ)という人物が、野球用語の数々を日本語にした。たとえばショート・ストップを「遊撃手」と名づけたのも彼である。1970年に野球殿堂入りした。


 正岡子規はと言えば、本名の升(のぼる)にひっかけた「野(の)ボール」という、訳語というより落語に出てくるようなダジャレを考えたに過ぎない。


 いずれにせよ地球規模で見たならば、野球などマイナーなスポーツだと言えるのだが、そのあたりのことを理解できていない日本人が多い。


 この原稿を書いている27日、将棋の藤井聡太7冠が、王位戦で見事な逆転勝ちをおさめ、前人未踏の8冠独占に王手をかけた。


 今や日本では、将棋のルールなど知らない人でも彼の名前は知っているが、日本以外では将棋など見たことも聞いたこともない、と言う人が圧倒的多数である。


 サッカーのレジェンドたるクリスチャーノ・ロナウド選手に対して、


「ショウヘイ・オオタニをどう思うか」


 などと質問した日本のTVレポーターが、どうして愚かしく思えるか、これでお分かりだろう。世界的なチェスの選手をつかまえて、


「ソウタ・フジイをどう思うか」


 と質問するようなものである。これでは中華思想どころか「井の中の蛙」ではないか。


トップ写真:クリケットのエイジアス・ボウルで行われたLV=インシュアランス・カウンティ・チャンピオンシップ・ディビジョン1のハンプシャー対サリーの試合2日目でのサリーのサイ・スダルサン(2023年9月27日 イギリス・サウサンプトン)


出典:Ben Hoskins/Getty Images


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