中国の対日糾弾はなぜ「贈り物」なのか
Japan In-depth / 2023年10月3日 21時0分
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米の中国専門家、「中国の日本水産物輸入禁止は日本への贈り物」と論評。
・中国の主張は科学的根拠がなく、あまりにも理不尽。日中の攻防の逆転のために絶好のチャンス。
・中国は、日米韓の防衛連携強化・台湾有事関与の不満を募らせ、経済不況の国民の不満をそらそうと計算している。
「中国の日本水産物輸入禁止は日本への贈り物」――
えっと、思わず驚かされるような論評がワシントンで出たことを報告しておこう。主題はもちろん東京電力福島第1原子力発電所からの処理水の海洋放出に対する中国政府の反応である。国際的にも安全性が証明された日本の処理水に対して、世界でもほぼ唯一、中国政府が「汚染水」だと断じて、日本の水産物すべてをボイコットする。こんな動きは日本に被害をもたらし、水産業を傷つけるというのが、現実だろう。
ところがアメリカ側の中国問題専門家からはその中国の措置を日本にとっての「ギフト(贈り物)」だと評する意見がまじめに表明されたのだった。なぜそうなのか。
日中関係をいま緊迫させる最大課題は福島第1原発処理水の放出への中国の糾弾であるという認識には反対はそうないだろう。表面だけみれば、正面から衝突する、白か黒かの日中両国政府の主張は他の第三国からはどうみられるのか。まず気にはるのは超大国のアメリカの反応である。
この点、アメリカの政府や議会という公的機関が日本の態度を全面支持していることはすでに明確となった。だがアメリカ側で中国の動向を詳しく追う専門家たちはどうなのか。ワシントンで何人かのそうした専門家たちに見解を尋ねてみた。
「今回の中国の措置は冗談ではなく日本への贈り物(ギフト)です」―こんな論評をしたのは中国の軍事戦略や対日政策を研究する日系アメリカ人学者のトシ・ヨシハラ氏だった。
アメリカ海軍大学で中国学の教授を長年、務め、いまはワシントンの大手研究機関の戦略予算評価センター(CSBA)に所属して活動するヨシハラ氏は全米でも有数の中国研究者である。中国の軍事戦略、とくに海洋政策を中心に外交や対外政策全般をも専門に分析し、歴代政権への政策提言などをしてきた。
そのヨシハラ氏が中国の今回の主張には科学的根拠がなく、あまりに理不尽なことが国際的にも明白だから日本側が攻勢に出て、中国の日本やその他の周辺国への年来の無法な言動を正す好機にできる、というのだった。日中の攻防の逆転のために絶好のチャンスだから、贈り物だともいえる、と指摘するのだ。
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