現時点では考えにくい中国の台湾侵攻
Japan In-depth / 2023年10月26日 23時41分
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・米国がウクライナやイスラエルに気を取られているので、中国が今こそ台湾を侵攻する絶好の機会だという見方あり。
・中国共産党は台湾侵攻の準備がまったくできていない。
・現時点で中国が台湾へ侵攻する可能性は著しく低い。
現在、ロシア・ウクライナ戦争が継続し、他方、イスラエル対パレスチナ・ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派が戦っている。近く、イスラエルがガザ地区に地上部隊を投入するという。
さて、目下、米国がウクライナやイスラエルに気を取られているので、中国が今こそ台湾を侵攻する絶好の機会だという見方がある。論理的にはその通りだが、それは現実味を帯びた議論なのだろうか。
まず、習近平政権は、目下、国務院(内閣)自体がガタガタ(a)で、特に、戦争時、一番重要な軍事と外交がほとんど機能していない。軍事や外交のトップが失踪したり、交代したりしている。
次に、習近平主席が暗殺やクーデターを恐れて身を隠している(b)。ここ3ヶ月、習主席はあまり北京に滞在せず、しばしば地方へ出かけている。これで、本当に台湾を侵攻できるだろうか。
更に、中国経済だが、不動産バブルが弾け始め、「金融危機」(c)さえ囁かれている。
かかる状況下、中国共産党は台湾侵攻の準備がまったくできていないと思われる。
一方、米国としては、習近平政権が突如、崩壊すると世界中が混乱するので、なるべく北京にアプローチして、“マイルドな政権崩壊”を目指している観がある。
今年6月以降、なぜか、ブリンケン国務長官以下、様々な重要人物が訪中している。最近ではシューマー米上院院内総務が率いる上院議員団が北京で習主席と会見した(d)。それはまるで「敵に塩を送る」類いのやり方ではないだろうか。
ところで、今度は軍事面から中国の台湾侵攻について考えてみよう。
第1に、ロシア・ウクライナ戦争を見ればわかる通り、長期戦になれば、武器・弾薬はもちろんのこと、食糧とエネルギーも必要である。
中国は食糧とエネルギーどちらも輸入に頼っている。そのため、戦争が1週間以上になれば、すぐ中国はギブアップせざるを得ないではないか。中国共産党は、あらゆる手段を駆使して戦う「超限戦」という戦法を持つが、理論通りに事が運ぶのか疑問である。
第2に、人民解放軍で最も強いロケット部隊が、米国との戦争を望んでいない(e)。良くて「痛み分け」、場合によっては、敗戦を覚悟しなければならないからである。
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