狙われるユダヤ人社会、南米3国国境地帯も緊張増す―中南米にもイスラエル・ハマス抗争が波及
Japan In-depth / 2023年10月28日 11時0分
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・イスラエル・ハマス抗争激化は中南米の中東コミュニティにも影響及ぼす。
・アルゼンチンのユダヤ人施設がイスラム過激派の標的になる可能性も。
・アルゼンチン・ブラジル・パラグアイの3国国境地帯でハマスやヒズボラの動き活発化の情報。
■各地に多数の中東コミュニティ
イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突の影響が中南米にも波及している。中南米各地でイスラエル・パレスチナ抗争に関連したデモが発生している。この地域は中東紛争とは無縁と思われがちだが、実はつながりが強い。歴史的に中南米の多くの国が移民を積極的に受け入れてきた経緯もあり、中東それぞれの出身者のコミュニティが多数存在するからだ。
例えばブラジルにはレバノン、シリア出身者を中心に推定800万—1000万人のアラブ系住民がおり、そのうち10%以上がイスラム教徒との統計もある。アルゼンチンには中南米最大の約20万人のユダヤ人コミュニティが存在するといわれる。また、チリの有力メディアは同国内には約50万人のパレスチナ人が居住し、強力なコミュニティを形成、反イスラエル感情が一気に強まっていると報じた。ちなみに、中南米では中東移民の家系の有名政治家も少なくない。アルゼンチンで1989年から10年間大統領を務めたカルロス・メネム氏は両親がイスラム教シリア人。今年8月に5年の任期満了で退任したパラグアイのアブド前大統領はレバノンからの移民の家系。エルサルバドルのブケレ現大統領はパレスチナ人を父親に持つ。
◇イスラエル大使館には爆破予告
イスラエルとハマスの抗争激化に伴い中南米で最も緊張が高まっているのはアルゼンチンである。前述のようにアルゼンチンには多数のユダヤ人で構成するコミュニティがあり、しかも長年にわたり活動してきたことから、反イスラエルのテロリストやイスラム過激派のターゲットになる可能性がある。
実際、1992年にブエノスアイレスのイスラエル大使館が自爆テロ攻撃を受け、犯人1人を含め30人が死亡、240人以上が負傷する事件が起きた。さらに1994年には「アルゼンチン・イスラエル相互協会」(AMIA)の本部ビルが爆破され、85人が死亡、200人以上が負傷する惨事も発生している。1992年の事件ではレバノンのイスラム教シーア派武装組織「イスラム聖戦機構」が犯行声明を出した。1994年のAMIA爆破についてはレバノンのシーア派組織ヒズボラの犯行との見方がアルゼンチンでは有力だ。
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