中東危機での国際秩序の地殻変動とは
Japan In-depth / 2023年10月30日 0時0分
ニューヨーク・タイムズの国際問題のベテラン・コラムニストのデービッド・レオンハルト記者も同時期の長文のコラム記事で「ハマス・イスラエル戦争のグローバルな背景」と題して、今回の中東危機はアメリカがもはや世界での主導的な役割を果たしていないことを実証した、と大胆な指摘をした。しかし他のどの国もアメリカのような主導的役割は演じておらず、いま目前に現出したのは、まさに多極世界だ、というのである。
この記事は「ロシアはなお断固として欧州での大きな戦争を続ける」、「中国は台湾への軍事威嚇をさらに強める」、「ハマスはアメリカからの報復を恐れない」などと述べて、「多極」を強調し、国際規範に違反する軍事行動を取る側が従来のようにアメリカの強大な軍事能力による抑止や制裁を心配しなくなった、とも記していた。その結果が「新しい国際秩序」というわけである。
その新情勢下ではアメリカと中国との対立が主要な分水嶺となる。このところ米中両国間では首脳会談への期待などが語られるが、なおアメリカ側での中国の無法かつ無謀な対外行動を非難する動きは高まっている。
今回のハマス・イスラエルの激突が米中関係にまで影響を及ぼすという実態はアメリカ上院民主党院内総務のチャック・シューマー議員の北京での言明でも明示された。中国を訪問した同議員は10月9日、習近平国家主席に対して「ハマスの残酷なイスラエル攻撃を中国も明確に糾弾すべきだ。ハマスをまったく非難しない中国政府の声明には失望した」と告げたことが報じられた。
▲写真 ニコラス・バーンズ駐中国米国大使(左)との記者会見にのぞむ、チャック・シューマー上院院内総務(民主党、ニューヨーク州)2023年10月9日 中国・北京 出典:Kevin Frayer/Getty Images
この背景には中国もロシアもこれまでイスラエルとは経済や軍事の協力をある程度、保ってきたため、ハマスを批判する態度もみせるのではないか、という米側の期待があったといえる。だが中ロ両国ともハマスの大量殺戮を非難しない点はイランを含めての反米枢軸のより堅固な誇示につながったといえよう。
アメリカはすでにウクライナ侵略を理由にロシアと、そして無法な軍事膨張などを理由に中国と、それぞれ対立状態にあるが、中東での今回の軍事衝突は両国の反米連帯をより構造的にするというのである。
トランプ政権の副大統領を務め、来年の大統領選に名乗りをあげた共和党のマイク・ペンス氏は今回のハマスの奇襲とその行動を支援するかにみえる中国、ロシア、イランの動きについて「アフガニスタン撤退の失態やイランへの迎合的な姿勢に象徴されるバイデン政権の宥和姿勢がハマスという反米勢力のテロ攻撃を招いた。中国、ロシア、イランは結束してバイデン政権の弱さにつけこんだのだ」と断言した。
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