中国の「一帯一路」は失敗だった
Japan In-depth / 2023年11月7日 17時0分
フクヤマ氏は東西冷戦でのソ連崩壊について「歴史の終わり」という論文で国際的注視を集めた政治学者である。べノン氏は国際開発を専門とする経済学者である。
この論文は中国が総額1兆ドルを100ヵ国以上に投資して、世界最大規模のインフラ建設を進めたが、中国のパワーと影響力を広め、中国、対象国の両方に経済成長効果をもたらすという本来の目的を果たさず、世界規模の債務の拡大と中国への反発や不信を増すだけに終わった――と総括していた。
同論文は一帯一路により「債務の罠」や債務の破綻をきたした国としてスリランカ、アルゼンチン、ケニヤ、マレーシア、パキスタン、タンザニアなどをあげていた。中国への債務を払えなくなったこれら諸国の多くは国際通貨基金(IMF)や世界銀行の特別救済資金に頼ったことで一帯一路の被害は国際社会主流の公的開発資金にも及んだという。
ワシントンの研究機関「ジェームズタウン財団」も10月下旬に一帯一路を総括する論文を発表した。「どこにも行かない中国の道」という題の同論文は中国側が重視した「中国パキスタン経済回廊」構想がパキスタン側の財政破綻や住民の大抗議でパキスタンの年来の親中姿勢までを変えたと指摘した。
同論文はこの経済回廊が中国の新疆ウイグル自治区からパキスタンのグワダル港を鉄道や高速道路で結ぶ構想だったが、中国側の融資の内容が不透明な点や実際の工事に中国側の企業だけを使う点などがパキスタンの反発を生んだという。
アメリカ側では中国が一帯一路の陸上の出発点を新疆ウイグル地区としたことがウイグル民族への大弾圧につながったとの見方も広範だった。
アメリカではそもそも2018年の国防総省の中国の軍事力についての報告でも一帯一路の軍事戦略的な危険を指摘していた。一帯一路は「国家集中的な政経システムを国際拡大する覇権志向の構想であり、他国に中国への債務依存を通じ軍事面での基地使用をも狙う」としてスリランカのハンバントタ港の例をあげていた。
▲写真 マータラからハンバントタまでの南部高速道路の延長工事の様子。 一帯一路構想の枠組みに基づく主要インフラプロジェクトの一つ(2018年11月16日、スリランカ・ハンバントタ)出典:Paula Bronstein/Getty Images
いまバイデン政権の国防次官補を務める中国問題専門のイーライ・ラトナー氏も2018年の議会証言で「中国が自国の独裁体制を対外的に拡大し、アメリカ主導の国際安全保障体制を崩すことが一帯一路の真の意図だ」と述べていた。だが中国側のその狙いは成功しなかった、というのがいまのアメリカでの一致した見解だといえる。
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