アルゼンチン、ミレイ次期大統領の過激な主張は実行されるのか
Japan In-depth / 2023年11月27日 17時16分
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・アルゼンチン大統領選で奇行や過激発言で知られるハビエル・ミレイ氏が当選。
・同氏の主張する経済の”ドル化”や中銀廃止は現実には困難。
・大統領就任後に同氏の ”変身”を予想する見方も。
■‟ドル化”と中銀廃止に多くの異論
先にアルゼンチン大統領選で当選したミレイ下院議員はその過激な言動などから「アルゼンチンのトランプ」、「極右のリバタリアン(自由至上主義者)」、「無政府資本主義者」などと呼ばれる。「政府省庁の半減」「臓器売買の合法化」「学校の民営化」など劇的な国内政策の変更をはじめ、「反中親米」への外交路線の転換まで急激な改革の実現を叫んでいる。だが、内外で大きな物議を醸しているのは、同氏が主張する国内経済の‟ドル化”と中央銀行の廃止だ。アルゼンチン・ペソをなくして、通貨は全部米ドルにしてしまうという過激な政策に多くのエコノミストや経済学者が異論を唱える。この政策が実施されればアルゼンチンの国内状況に応じた独自の金融政策ができなくなるという。そればかりではない。通貨ペソを廃止するため国内で流通するペソを買い集め、ドルと交換せねばならないが、巨額のドルを確保する力が現在のアルゼンチン政府にあるとは到底考えられないとの意見も多く聞かれる。年率140%を超えるインフレ、外貨準備枯渇や貧困拡大などに見舞われている経済が一層混乱に陥るリスクの方が高いと見るのは当然だろう。
■無視できない中国との経済的つながり
もう一つアルゼンチン経済の再建を考える上で重要な点は、アルゼンチンと中国の経済的結び付きの強さである。例えば、米国の中南米問題シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ」(IAD)の専門家はアルゼンチンと中国の通貨スワップ協定を重視、同協定がアルゼンチンの貿易決済や対外債務支払いで大きな役割を果たしてきたと指摘する。
アルゼンチンはキルチネル左派政権下の2009年、中国との通貨スワップ協定を締結、今年6月には中国人民銀行とアルゼンチン中央銀行の間でアルゼンチンが使用可能な額を倍増する新たな協定を締結したとブエノスアイレスの有力紙が報じている。前述のIAD専門家によれば、アルゼンチンの財政面や債務返済上、中国とのスワップ協定への依存度がこの数年格段に増しており、中国の協力なしにはIMFへの返済もできなくなる恐れがあるという。
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