どうした「ものづくりニッポン」 失敗から学ぶことは多い その6
Japan In-depth / 2024年2月24日 23時0分
などと笑いながら語っていたので、そんな風に「ゆとり」の態度だからだよ、とまずは内心で思い、こちらも後で文章化した。
これはあながち笑いごとではない。たしかに、車は動けばよい、と割り切ってしまったならば、シコシコと改良を重ねて行く、などというのは虚しい努力だと思えるだろう。
とは言え、家電や自動車をはじめとして、日本メーカーの、既存の製品に満足することなく改良を続ける姿勢こそが、わが国を世界トップレベルの輸出大国に押し上げたのだということは、疑問の余地がない。少なくとも私はそう確信している。
実際問題として、当時の日本の輸出産業は、世界中から畏怖の目で見られていた。なにしろ、トヨタの工場から人口に膾炙するようになったらしいKAIZENという単語が、あのオックスフォード英語辞典に所収されたほどである。
「日本企業において、現場の労働者が率先して業務の在り方や工程を見直し、製品の価値を高めようとする運動」
などと説明されていた。
ところが、1980年代の後半に入るや、急に様相が変ってきたのである。
ある年代以上の読者は、すでにピンときたのではないだろうか。そう。バブル景気が始まったのだ。
前年すなわち1985年に、ニューヨークのプラザホテルに、G5(日米英独仏)の蔵相・中央銀行総裁が集まって開かれた会談の結果、当時の「高すぎるドル」を是正して、米国の輸出競争力を回復させるべく、協調介入することが決まった。世に言うプラザ合意である。
これを受けて日銀は低金利政策へと舵を切り、結果、市中にカネが溢れることとなった。
株、不動産から美術品まで、ほぼあらゆるものが投機の対象となって価格が暴騰したことは、今も語り草だ。金利が安いのだから、借りられるだけ借りて投機に回せば、借入金の何倍もの不労所得が得られる。多くの人がそのように考えたのも、無理からぬところであろう。
こうなると日本の企業社会全体に、カネがカネを生むといった幻想がはびこる。実際、私の旧知のジャーナリストなども、大手ゼネコンの社員を父に持つのだが、当時は、純利益が1000万円台という仕事など、
「疲れるだけだから、引き受けるな」
と言ってはばからない空気があったそうだ。建設業者が、巨大プロジェクトに非ざる一般的な建設の仕事に魅力を感じなくなっていたのである。
輸出産業にせよ、当初は円高のせいで売れ行きが落ちたり、売れても利益率が下がったりしていたが、コストダウンや業態転換でなんとか克服できた。ただ、本業の減益を投機で補っていた会社がかなりあったことも、また事実である。
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